新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
5月の夏場所、初土俵から7場所の史上最速優勝を果たした大の里。横綱、大関が相次いで休場したとはいえ、その快進撃は多くの相撲ファンを驚かした。今月14日から始まる名古屋場所での「2場所連続優勝」にも注目が集まる。そこで本稿では、高校2年から大の里を取材・応援し続けるスポーツライター・小林信也が、角界期待の大物・大の里の知られざる人間味を伝える。 (文・撮影=小林信也)
史上最速の大関昇進の期待を担う大の里
5月の夏場所で史上最速優勝を飾り、新関脇に昇進した大の里は、14日から始まる名古屋場所で今度は史上最速の大関昇進の期待を担っている。 通常大関に推挙されるには、「三役(小結、関脇)で3場所32勝以上が基準となる」と言われている。大の里は、2場所前は平幕(西前頭5枚目)だから本来なら大関昇進を議論される対象ではない。しかし、入幕からの成績が11勝、11勝、12勝。しかも先場所が優勝だから、名古屋場所で優勝すれば「昇進してもおかしくない」という声が高まっているのだ。何しろ、「2場所連続優勝」は横綱昇進の条件のようなもの。その高いハードルをクリアするなら大関昇進に異論はないだろうとの見解が広がっている。 二所ノ関親方が「13勝以上でなければ優勝ではない」と大の里を諭したと報じられたとおり、もちろん今度は13勝を越える成績での連覇が最低条件になるかもしれない。
「聡明だなんて、とんでもない。何か聞いてみてください」
私が大の里に初めて会ったのは7年前、2017年。彼、中村泰輝(だいき)が新潟県立海洋高校2年の春、ある表彰パーティーの席だった。 190センチを超える長身、均整の取れた堂々たる体格。言葉を交わすと、その身体以上の将来性を感じた。「楽しみですね」と思わず傍らの田海哲也総監督に声をかけた。「この身体で、しかも聡明だし、将来角界を背負ってくれたら頼もしいなあ」と素直な感想を伝えると、田海は謙遜した。「聡明だなんて、とんでもない。何か聞いてみてください」。 そう言われ、どう反応すべきか迷ったが、「将来は大相撲に入りたい」と言う泰輝に、「お相撲さんは十両でも月給100万円以上もらえるらしいね」と水を向けた。 「本当ですか!」 泰輝は驚いた顔をした。すると田海がすかさず質問を向けた。 「おい、月に100万だと一年でいくらだ?」 「えっ?」と、少し考えた後、泰輝は「300万ですか」と真面目な顔で答えた。 「ほらね、この調子なんですよ」、田海は笑った。 軽妙なやりとりに、私のほうが戸惑った。本気の答えなのか、二人に煙に巻かれたのか? それから、できる限り応援に出かけた。高校時代は脆さも目立った。高3のインターハイでは早々に敗れた。個人優勝は埼玉栄高校の齋藤大輔。いま幕内で活躍する北の若だ。恵まれた体格を持ちながら、なかなか頂点をつかめない結果にじりじりする時期が続いた。