「あまやさい」ブランド化を 工都・尼崎に知られざる美味 パンや総菜に加工、店登録でPRへ
高度経済成長期に「工都」として栄え、住宅密集地の尼崎市内に、わずかに残された農地がある。そこで生産された「あまやさい」を使い、料理や総菜などを販売する店を「地産地消推進店」に登録する取り組みが9月から始まった。農業の担い手が高齢化する中、「食」を通じて魅力をPRし、まちづくりにつなげる狙いがある。(広畑千春) 【写真】看板のトマトの裏作としてコマツナを栽培する小寺清隆さん ■田能の里芋、落花生、コマツナ… 同市東七松町1のパン店「ベーカリー・レーブ」は11月、新メニューの「里芋牛すじめんたいピザ」の販売を始めた。 材料に使っているのは市の伝統野菜で、三大名産の「田能(たのう)の里芋」。白くきめ細やかでねっとりとした甘みが特徴で、2000年に市民団体が農家から種芋を譲り受け復活に取り組んできた。店内には落花生のメロンパンや市内産の野菜を使ったピザなどが並ぶ。 きっかけは1年半ほど前、阪神尼崎駅前の観光案内所で偶然出合った「あまやさい」の直売だった。「トマトにキュウリ、ズッキーニ…。尼崎で採れるなんて目からうろこだった」と同店の小下智枝子さん(56)。「パンなら老若男女、誰でも食べやすい」と試行錯誤し、今年3月、ホウレンソウ入りのだし巻きを挟んだホットサンドを発売した。 6月からは市内外でコミュニティーファームを営む「園北ファーム」から仕入れるように。9月に市の「あまやさい地産地消推進店」に登録した。 畑にはいつも同じ野菜があるわけではない。その時々の季節の野菜をどんなパンに仕上げるか。収穫に赴くこともあり、「アイデアが次々湧いてくる。育てる、採る、作る、食べるを、私もお客さんも実感できる」と声を弾ませる。 ◇ 尼崎市内には武庫川、藻川、猪名川、神崎川の流域があり、かつて稲や野菜だけでなく綿花なども盛んに栽培されてきた。 明治以降、その綿花を利用した紡績工場が林立し、水陸の利便性の良さから工業都市として発展。宅地化も進んだ。市によると、4月時点で市内の農地は79・8ヘクタールで全体の約1・7%。相続の際に手放す人もおり、この5年で6ヘクタール減った。 一方で消費地にある利点を生かし、攻めに転じる農家も出ている。「味の濃さと甘さが格別」と人気を集める「コテラトマト」の小寺清隆さん(41)が作るコマツナもその一つ。もみ殻やワラなどを配合した「ぼかし肥料」を混ぜ込んだこだわりの土で、栄養価の高さやみずみずしさをアピールする。 市はこうした農家を認定農業者として奨励している。18年度末に「あまやさい」のロゴを作り、19年度からブランド化を進めてきた。 さらに知名度を高めようと、1種類以上のあまやさいを使った料理などを提供する店を「あまやさい地産地消推進店」に登録。市ホームページなどでPRし始めた。店頭にはのぼりなども掲示する。 スタートから2カ月で、登録は7店になった。市は「都市農業は産業だけでなく環境や子育て、まちづくりなどでも大きな意味がある。料理や加工品を通じ、イメージ向上やまちへの愛着にもつなげてもらいたい」としている。