【真理子の部屋/日曜小倉1R】「一緒だから踏み切れる」
【真理子の部屋/日曜小倉1R・障害3歳上未勝利】 競馬に携わる方々を独自の感性で描き続けてきた赤城真理子記者。それらは「予想」というカテゴリーにとどまらない、ある種の〝物語〟といっていいのかもしれない。最前線で活躍する赤城記者がお届けする人馬のストーリーをぜひご堪能ください。
◆「一緒だから踏み切れる」
障害練習をすることで、馬に現れるプラスの変化を「障害効果」といいます。その意味は深く、障害を飛ぶことでトモの筋肉が鍛えられ後躯が入ってくることだったり、ガーッとひと息で走ってしまいがちだった馬が息を入れることを覚えたり、心肺機能が強化されたり、馬によって様々。でも、私が記者として練習を垣間見、またジョッキーに取材をすることで一番大きく感じたのは、「人間との信頼関係の強化」です。 道端に落ちているバンテージの切れ端にすら驚いて飛びあがってしまうほど臆病な馬たちが、あれほど大きな障害を飛び越えられるようになること。それは自らの背に乗っている人を信頼し、呼吸を合わせ、頼ってくれなくては成しえないことだと思います。最初は障害を見たり、小さな横木をまたぐことから始め、徐々に徐々に飛べるハードルを高くしていく。騎手が声を掛け、完歩を合わせ、いちにのさんで「一緒に」飛ぶ。それでも飛べない子は、助手さんが手綱を引いて走り、一緒に飛んであげたりしているのも見たことがあります。競走馬にとっては「怖いこと」を、「人間と一緒だからできる」と思ってもらえるようになること。それほどまでの信頼関係を障害ジョッキーは時間をかけた練習の中で築き、競馬でも一身に担っているのです。
トラウマを乗り越えて障害デビューへ
今週、日曜小倉1Rで障害デビューを迎えるレガーミ(牝5・木原)は、3歳時の競走中、前の馬に触れて転倒してしまったことにより、〝馬が怖く〟なってしまった子でした。その心の傷─トラウマは人間が思うより重症で、競馬で馬混みに入るなんてもってのほか。担当の木原知之助手は彼女を気遣い、運動中もなるべく他馬に近づき過ぎないよう間隔を取るようにしておられたのですが、前の馬が尻尾を振ったりしようものなら恐怖で脚がすくみ固まってしまうほど。普段はとてもおしとやかで人懐こい女の子なのに、そうなるとパニックになって周りが見えなくなってしまいます。 そんなレガーミがきっかけを求めて挑戦することになったのが障害レース。1か月ほどの時間をかけ、小野寺祐太騎手がコンタクトを取りました。最初のころは下手だった障害も、今ではすっかり上達。臆病なぶん、障害をしっかりと見て飛ぶので確実な飛越となります。練習を毎日見に来られていた知之助手は、彼女が飛越をするたびに「オッ!」とか、「今のはうまかった」とか、親のように見守っていました。障害試験に受かったあとも、もともと目標にしていた今回の小倉まで少し間隔が空いていたので、前走は京都の平場に挑戦。鞍上はそのまま小野寺騎手で、木原調教師に「乗ってくれる?」と頼まれたそうです。 「小野寺と一緒なら馬混みをぜんぜん怖がっていなかった。あんな姿、久々に見れたよ」とは、レース後の知之助手。小野寺騎手は「もう少しうまく乗ってあげれたら良かった」とおっしゃっていましたが、厩舎の皆さんは「小野寺君は平場もうまいよ! しっかり追ってくれたよ」と大満足だったのです。 そして、満を持しての今週です。いろんな馬たちの馬群の中で障害を飛ぶ…以前のレガーミなら考えられなかったことですが、小野寺騎手とならきっと大丈夫。 「とにかく無事に帰ってきてくれたらそれでいい。レガーミって普段から品があって、しぐさも女の子らしくて、本当にかわいい子なんです。昔はなぜか牡馬にはモテなかったんだけど、最近はすごいモテだして、担当としては〝やっと分かったか! めちゃくちゃかわいいだろ!〟って鼻が高いですよ」 そう言ってレガーミを優しい笑顔で見つめる知之助手も、心ではきっと彼女と一緒に障害を飛んでくれます。小野寺騎手と知之助手がついているから、怖がりだったレガーミも、きっと思い切って障害を飛べる。そして検量室前で出迎える知之助手の元へ、元気に帰っておいでね。
赤城 真理子