上田誠仁コラム雲外蒼天/第51回「切磋琢磨の日々を出し切って」
山梨学大の上田誠仁顧問による特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! ********************** 今年は短い秋だった。富士山の初冠雪は平年だと10月2日ごろに観測されるのだが、今年は観測史上最も遅い11月7日であった。 【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第50回「刹那の差を生んだ箱根駅伝予選会~それぞれのドラマを紡いで~」 農作業はまったくの素人の私も、縁あって小さな畑の一角を借り、いくつか食用野菜を栽培してみようと挑戦している。家庭菜園を楽しんでおられる方や農業に従事されている方に笑われるかもしれないが、昨年のこの時期に苗植えをしたタマネギがどうにも大きく育たなかった。 今年も苗植えの季節がやってきたので、大きく育つようにと苗の間隔を少し離し気味に植え付けようと作業を始めた。そこを通りがかったご老人と、世間話になった。 「今年の残暑は年寄りにはなかなかこたえっちもーたけんど、その分秋がちっとばかしになっちまったじゃんね!」。そう甲州弁で話しつつ、苗植えを一瞥すると「ほんなに苗の間隔を空けっちもーとタマネギの玉はデカくならんずらに」と助言をいただいた。 (「今年の残暑は年寄りの身体にはなかなかきついものがあったけれど、その分秋のシーズンがとても短くなってしまったね」「そんなに間隔を開けてしまうとタマネギは大きく育たないよ」) 私は、勝手な思い込みで苗の間隔をしっかり開けて、苗に養分がしっかり吸収できる快適な環境を提供したつもりであった。 そのように話すと、「それだと苗は甘えてちっとも大きくならんよ。間隔が狭いくらいがお互いに競争してタマネギはどんどん大きくなるから」とご老人に教えていただいた。 切磋琢磨とはこのような環境においてなされることであり、真の能力開発には欠かせないことだろうと思いが及んだ。さりげない一言であったが、コーチングの真髄を言い表した言葉ではないだろうか。 脳裏に浮かんだのは、ハリウッド映画の空手キッド(ベストキッド:日本では1985年公開)の師匠が弟子に空手を伝授するシーン。苗植えを伝授してくれたご老人が、まるでこの映画の師匠とオーバーラップしてしまった。 「花鳥風月・春夏秋冬、吹く風や野に咲く花からも教えを乞うことができる!」とは語っている。しかしながら、まだまだ知らぬことや気づかないことがいかに多いかと、反省至極である。それだけにコーチングの現場に立つ身として、素直にその言葉が心に染みこんだ。