人間関係は勝ち負けじゃない!「ゲーム理論」で読み解く《協力の方程式》…なぜウィン・ウィンな関係は難しいのか?
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 長谷川圭 高知大学卒業。ドイツ・イエナ大学修士課程修了(ドイツ語・英語の文法理論を専攻)。同大学講師を経て、翻訳家および日本語教師として独立。訳書に『10%起業』『邪悪に堕ちたGAFA』(以上、日経BP)、『GEのリーダーシップ』(光文社)、『ポール・ゲティの大富豪になる方法』(パンローリング)、『ラディカル・プロダクト・シンキング』(翔泳社)などがある。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第13回 『「もしチンパンジーの団体が飛行機に乗ったら?」…進化論的にみた人類の有する能力の“異常さ”』より続く
「ゲーム理論」の誕生
20世紀になって、人間間の協調の条件と限界を調べる学問が誕生した。いわゆる「ゲーム理論」だ。ゲーム理論は、それぞれ合理的な利害関係者がどのように相互に作用するかを調べ、協調的な行為を選び、それを維持することが難しい理由を説明しようとする。 ゲーム理論と名付けられたのは不幸だと言える。一方ではチェスやポーカーやバスケットボールなどといった「ゲーム」を学術的に研究する分野であるかのような印象を生むし、もう一方では、人間同士の協調生活をただの娯楽と卑下しているようにも聞こえるからだ。どちらの考えも正しくない。 実際には、ゲーム理論の研究者は人間同士の相互作用を厳密な数学モデルを用いて描写しようとする。最大の目的は、協力が失敗したり、成立しなかったりする理由を解明することにある。 人間同士の作用は連続する行為として認識でき、人物Aがとった行為がBにとっての最善の行動を決めるという考えから、ゲーム理論という用語が選ばれた。
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