モノ言う株主・丸木氏「社外取締役は飾りじゃない」 「求められる役割」を日本企業の経営陣は知っているのか
■M&Aにおいても細かく確認するのが役割 あるいはM&Aを画策している場合は、いくらぐらいまで出すつもりなのか、それによって買収先企業の価値をどうやって高めていくのか、そもそも買っていいのか。 常勤取締役はM&Aの実行そのものが目的となってしまっていることがあるので、細かく確認するのも社外取締役の仕事でしょう。 昨今であれば、買収費用として例えばEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益。企業の稼ぐ力を表す指標で、一般的には営業利益+減価償却費)の何倍まで出せるかを、あらかじめ決めておくのもよくある考え方です。大企業なら、もちろん専門チームがこれらの数字を精査した上で、最終的にトップが決断することになると思います。
ところが中小企業の場合、そこまでの体制を整えられないので、プロセスが曖昧になることがあります。我々の投資先企業でも、かつてM&Aで傘下に入れた企業の価値が3年ほどで大幅に下がり、減損処理したケースがありました。 「この会社はどういう基準で買ったのですか」 と我々がお尋ねすると、社長も担当役員も下を向いたまま。EBITDAなども含め、特に何も検討せずに買ってしまったようです。こういう事態を事前に食い止めるのも、社外取締役に期待されるところです。
以上が平時における社外取締役の仕事だとすれば、もう1つ大事なのが有事における仕事です。 例えば会社の業績がずっと低迷しているようなら、その社長を解任しなければならない。社内にはいろいろな人間関係や力関係があるので、これは社外取締役にしかできない仕事だと思います。 もちろん、急には対応できないでしょう。会社法では、取締役会で過半数の出席とその過半数の賛成が条件になります。常勤も含めた取締役の間でコンセンサスを得るのは、容易ではないはずです。
■「社長解任」の基準を設定する そこで有効なのが、事前に指名委員会で、「会社がこうなったら社長の解任を検討する」という基準を設定しておくことです。 例えば3期連続赤字とか、3期連続ROE(株主資本利益率)が◯%以下とか、トップとして責任を免れない不祥事が起きた場合等々。こういうものを定めておけば、いざというときに堂々と解任を提案できるわけです。 あるいは、他社からM&Aのターゲットになった場合も有事といえるでしょう。
その場合、常勤取締役はやはり保身を考えて反対を主張しがちです。だからこそ、社外取締役が是非を冷静に判断する必要がある。 特別委員会を作り、買収提案の内容が株主にとってプラスかどうかを見きわめるわけです。ちなみに、社外取締役が高すぎる報酬をもらっていてはいけない理由がここにあります。社外取締役自身の保身を考えてしまうからです。 こうした役割を期待されている以上、社外取締役はけっして「お飾り」ではないし、また株主の側も彼らの仕事ぶりをチェックする必要があるはずです。
丸木 強 :株式会社ストラテジックキャピタル代表取締役