手取り18万円以下「相対的貧困」家庭の「厳しい現実」…子どもの体験は「贅沢品」でいいのだろうか
習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】子ども時代に「ディズニーランド」に行ったかどうか「意外すぎる格差」 発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。
初の「体験格差」全国調査
私たちは、こうした既存の様々な調査にも学びながら、「体験格差」のより広範かつ立体的な実態把握を目的として、初めての全国調査を行った。その特徴は大きく5つある。 (1)「体験格差」の実態把握を目的とすること (2)「小学生」の保護者を対象としたこと (3)「全国」規模の調査としたこと (4)「体験」の具体的な範囲を定めたこと (5)「相対的貧困」の境界線を意識して設計したこと 4点目と5点目についてのみ、若干補足の説明をしておこう。 まずは「体験」の範囲について。私たちは、「球技」から「旅行・観光」まで、子どもたちの「体験」を33の項目に整理し、そのうえでそれらを大きく二つの種類に分類した。(1)「放課後の体験(主に平日の放課後に定期的に行う習い事、クラブ)」と、(2)「休日の体験(主に週末や長期休暇中に単発で行うキャンプや旅行、お出かけなど)」だ(表1)。 「放課後の体験」と「休日の体験」には、いずれも、「遊び」と「学び」の両方の要素が含まれるが、そのバランスには少し違いがありそうだ。 一方の「放課後の体験」には、例えば野球チームやサッカークラブ、ピアノ教室などが入る。基本的には大人の講師や指導者のもとで定期的に行う活動で、「学び」の要素が強いものが多い。 もう一方の「休日の体験」には、野外体験など大人の指導者がいるものに加えて、家族との旅行まで幅広い内容が含まれる。どちらかと言えば、「遊び」の要素が強いものが多いと言えるだろう。 「体験」の範囲を明確に決めることはできないが、今回の調査では、日々の習い事から休日の余暇やレジャーまで、できるだけ幅広い対象を網羅できるように項目を設定した。 次に、今回の調査では、特に体験の「格差」の実態が明らかになるように設計を試みた。最も重要なことは、低所得家庭の区分をしっかりと設定し、その対象となる人々から十分な数の回答を得ることだ。 例えば、先に触れた文部科学省による「子供の学習費調査」では、最も低い世帯年収の区分が「400万円未満」となっている。これに対して、私たちの調査では「300万円未満」という区分を設けた(ほかの区分は「300万円以上600万円未満」と「600万円以上」)。厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査」における「相対的貧困線」を念頭に置いたものだ。 「相対的貧困」のライン(可処分所得)は世帯人数によって異なり、2人世帯で179万円以下、3人世帯で219万円以下、4人世帯で254万円以下が、相対的貧困とされる。これらの可処分所得を世帯年収に換算すると、200万~300万円前後となり、世帯年収が「300万円未満」という今回の調査で設定した区分には、これらの人々がおおよそ含まれることになる。 なお、最新の調査によると、子どもの相対的貧困率(17歳以下、2022年)は11.5%で、約208万人の子どもたちがこれに該当する。