手取り18万円以下「相対的貧困」家庭の「厳しい現実」…子どもの体験は「贅沢品」でいいのだろうか
体験は贅沢品か
日本では、「相対的貧困」の状況にある家庭が1割強もある。逆に言えば、8割以上の人々は「相対的貧困」を生きておらず、その多くは一度もそういった状況を経験したことがない。 そのため、多くの人にとり、「相対的貧困」のリアルな状況を理解することは必ずしも容易ではないだろう。重要なことは、できるだけ具体的な金額感をイメージしてみることだ。 例えば、母親と小学生の子ども二人のひとり親家庭の場合、手取りの収入(可処分所得)が18万円を割り込んでくると、相対的貧困の範疇に入ってくる。 この18万円の中から、家賃を払い、3人分の食費を払い、光熱費を払い、スマホなどの通信費を払い、場合によっては、子どもたちの将来のための貯蓄もしていく。 子どもが大きくなれば食費は上がり、猛暑になれば光熱費が上がる。物価の高騰は、文字通り家計を直撃する。数百円、数千円が大きな違いをもたらす。どんな出費にも、慎重にならざるを得ない。 この本を書くにあたり、「相対的貧困」の状態、あるいはそれに近い状態にある家庭の保護者たちからたびたびお話を聞いた。 あるシングルマザーの女性に月収を聞くと、手取りで15万円ほどだと教えてくださった。しかも、1年ごとの有期契約で雇用されており、来年以降も同様に仕事があるのか、まったく見通しがつかないという。 もし職を失ってしまったら、もし自分に何かあって収入が途絶えてしまったら、子どもたちの生活が立ちゆかなくなってしまう。そんな不安から、彼女は行政から支給されるひとり親家庭向けの手当には一切手を付けず、子どもたちが将来進学する際の費用として貯蓄に回しているそうだ。 別のシングルマザーの女性からは、こんなお話を聞かせていただいた。彼女には育ち盛りの子どもが二人いて、普段は外食をする余裕などまったくないが、子どもたちが好きなハンバーガー屋にだけは、時々3人で行くことがあるのだという。 そこでは、ハンバーガーとポテトとジュースのセットを一つだけ頼み、加えてハンバーガーを一つ単品で注文するそうだ。合計で1000円を超えないようにし、自分はハンバーガーにもポテトにも手をつけない。普段、自宅で夕食を食べる際も、まずは子どもたちに食べさせ、自分は子どもが食べ終わったあと、残ったものを口にしている。 こうした家庭に生まれた子どもたちにとって、様々な「体験」の機会は、得られなくても仕方のない「贅沢品」だろうか。そうであるべきではない、「必需品」であって然るべきだと私は思う。 だが現実は厳しい。私たちの調査結果をもとに、「体験格差」の実態を確かめていこう。 つづく「多くの人が薄々と感じていた『格差』…年収300万円未満の家庭『体験ゼロの子どもたち』」では、親の収入の大小と子どもの「体験」のあり方との関係に迫っていく。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)