サブリナ・カーペンターが語る、2024年を代表する曲「Espresso」制作秘話とさらなる決意
ニューアルバムの展望、ジャック・アントノフへの信頼
そしていまは、8月23日にリリースされる通算6作目のニューアルバム『Short n’ Sweet』の仕上げに取り掛かっている。そのために自制心を鍛え、過去を振り返ったり考えすぎたり、さらには変更を加えすぎることを控えようとしている。これについてカーペンターは「アーティストは、誰もがそうだと思う」と口を開き、「個人的には、音楽にも“旬”があって、アルバムは特定の時期を象徴するものだと思っている。でも、たとえばある曲が1年前に書かれたもので、いまでは私自身がその曲とは違う考え方を持つようになったからといって、アルバムにふさわしくないとは言い切れない」と続けた。 ニューシングル「Please Please Please」をはじめ、『Short n’ Sweet』に収録されている曲の約半分はアントノフがプロデュースしたものである。6月7日にリリースされた「Please Please Please」も大ヒットし、Spotifyのランキング「Top 50 グローバル」の1位に輝いた(「Espresso」は2位)。“Heartbreak is one thing/My ego’s another / I beg you don’t embarrass me, motherfucker(傷つきたくないというのもあるけど / プライドもあるの / 恥をかかせないでよ / ほんとイヤなやつ)”という歌詞にもあるように、この曲でカーペンターは涙ながらに優しく相手を諭している。この曲についてアントノフは、次のようにコメントした。「オリビア・ニュートン=ジョンのようでもあれば、ドリー(・パートン)のようでもある――それでいて、驚くほどモダンなポップ感もあります。サブリナのボーカルはとても斬新かつユニークで――ヨーデルのようでありながらカントリー風ともいえるような、クラシカルでありながらも変わった歌い方をしているんです。いまや彼女は、次世代ポップスターを代表する存在になりつつあります。このように歌詞だけでなく、歌唱を通して自分自身を表現できることは、彼女にとって最大のステイトメントでもあるのです」。 カーペンターは、いまや大親友のひとりであるアントノフと初めて会ったときのことをいまでも覚えている。ふたりは、2年前にニューヨークのコメディクラブの前で初対面を果たした。「ずっとジャックと仕事をしたくて仕方がなかったから、お漏らしするんじゃないかってくらい興奮した。その後、意気投合して友達になれたことはすごくラッキーだった。でも、私たちは似た者同士だから、仲良くなるのは時間の問題だったのかも」と言い、次のように続けた。「ニューアルバムのために作っていた曲をいくつか聴いてもらい、それからは何もかもが最高だった」 アントノフは、自分が思い描いたニューアルバムのコンセプトを積極的に受け入れてくれた、とカーペンターは語る。そうしたうえでアイデアを提供してもらい、昨年は二人三脚で収録曲の約半分を手がけたという。カーペンターは、アントノフとのアルバムづくりを「人生でもっとも幸せな時間」と振り返り、「他のコラボレーターたちと手がけた楽曲と、ジャックと手がけた楽曲をミックスすることには苦労しなかった」と指摘する。さらには「最初のうちは、別々の作品のように感じることもあれば、ひとつの作品のように感じることもあって迷っていた。でも、すべてがしかるべき場所に収まるにつれて『一枚のアルバムでいいんだ』って思えるようになった」と語った。 数々のポップヒットを世に送り出した売れっ子プロデューサーのアントノフだが、SNS上では賛否両論のようだ。一部では、同じアーティストと仕事をするときの変化のなさを非難する声も少なくない。実際、4月にリリースされたテイラー・スウィフトのニューアルバム『THE TORTURED POETS DEPARTMENT』は、単調だといって槍玉にあげられた。対するカーペンターは、こうした批判を「クソ食らえって感じ」と一蹴する。 「マジでクソ食らえって感じ(F**k them all)」とカーペンターは繰り返す。「ジャックは、私が出会った中でもっとも才能に恵まれた人。彼がそこにいて、そこにあるすべての楽器に触れるだけで、まるですべてが魔法にかけられたように生き生きとするの。それだけでなく、彼はとても仕事が早い。私も仕事は早いほうだから、とても助かってる」。 フォークポップ、オルタナティブポップ、エレクトロポップといったポップミュージックの才能を開花させてくれたのは、2022年にリリースした前作『emails i can’t send』だったとカーペンターは語る。そんな彼女は、ニューアルバムにおいてもポップ路線を継承しつつ、さらなる高みに登りたいと考える。収録曲の歌詞に関しては、キャリア史上もっとも誠実なソングライティングを心がけたという。たしかにそれは、近年のポップシンガーとしてのセールスポイントではあるが、カーペンターの場合は少し違うようだ。実際、彼女の歌詞からは気取りのようなものが一切感じられない。これについてアントノフは、「他人の意見なんて気にしないという“美学”、あるいはそう思っていることを伝えようとする“美学”は、今日ではすっかり浸透してしまい、多くのアーティストがそれに迎合するようになりました。でも、サブリナは違います。彼女は、どこまでも自分に正直なんです」と指摘する。 だからといって、カーペンターにとってすべてが「Espresso」の歌詞のように陽気で明るかったわけではない。確かに彼女は恋と失恋、そしてその間にある“煉獄”のような苦しみを歌詞へと昇華させる才能に長けている。そのいっぽうで、『emails i can’t send』に収録されている名曲「because i liked a boy」の中で“Now I’m a homewrecker, I’m a slut/I got death threats filling up semi trucks(いまの私は、家庭を破壊するふしだらな女 / トラックがいっぱいになるくらい大量の殺害予告の手紙が送られてくる)”と歌ったように、恋人との破局後に世間から激しいバッシングを受けたことを悲しそうに振り返る。それでも彼女は、同じアルバムに収録されている「opposite」のように、“She looks nothing like me/So why do you look so happy? / Now I think I get the cause of it / You were holdin’ out to find the opposite(あの娘と私は、見た目が全然違う / それなのに、どうしてそんなに幸せそうなの? / いまになって理由がわかった気がする / あなたは、私と正反対の相手を探していたんだね)”と苦しい胸の内を歌い続けた。 音楽を通して分かち合う自身のストーリーに慰めを見出してほしい――カーペンターは、ファンに対してそう思っている。「私が犯した過ちの中から、今後の人生の指針となるようなものを見つけてほしい。だって、私が自分の人生を正直に語れば語るほど、ファンのみんなは『あんなことがあったけど、気にしなくていいんだ。世界が終わるわけじゃないんだし』と思えるような気がするから」とカーペンターは言う。そんな彼女に、『emails i can’t send』をリリースした頃といまとの最大の違いは何か? と尋ねると「あの頃は、毎日泣いていた。でも、いまは違う」という答えが返ってきた。 そのいっぽうで、際どい歌詞もお手の物である。たとえば、テイラー・スウィフトのThe Eras Tourのシンガポール公演でオープニングアクトを務めたときは、2022年のヒット曲「Nonsense」のアウトロの歌詞を“I told that boy to sit me down on all fours / I told that boy ‘Go faster,’ now I’m all sore / You hit a little different here in Singapore(「四つん這いにして」ってあの人にお願いしたの / 「もっとはやく」って催促したから、体中が痛い / シンガポールのあなたは、いつもと違う感じ)”と即興でアレンジし、その才能を見せつけた。 カーペンター自身は、保守的な人々やディズニー・チャンネルの人気子役の成長を受け入れられない人々のことをあまり気にしていないようだ。それどころか、自分なりの成長を遂げたことに誇りを感じている。「昔は、大人っぽい内容の歌詞を書くことにプレッシャーのようなものを感じていた。というのも、周りの大人たちは『そのほうがカッコいいし、売れるから』と思っているようだったから。でも、そうしたことを自分で経験し、心の底からそう思えるようになるまでは、あまり気が進まなかった」と明かし、さらに続けた。「だから、私が歌うエッチな気持ちは、失恋して意気消沈しているときと同じくらいリアルな、25歳の女性としての感情なの」