【相撲編集部が選ぶ九州場所初日の一番】チョンマゲ大関大の里、一瞬ヒヤリも白星発進。初日は3大関安泰
決していい内容とは言えないものの、結果として白星を手にできたことは大きい
大の里(突き落とし)平戸海 “チョンマゲ大関”の初日は、一瞬ヒヤリの白星発進だった。 【相撲編集部が選ぶ夏場所9日目の一番】あっぱれ! 平戸海が大の里を倒す。1敗消えて優勝争いは風雲急 一年納めの九州場所。なんといっても注目はこの新大関だ。その名は大の里。デビューからわずか所要9場所、新入幕からは所要5場所(しかも全場所三賞受賞)という、歴史上にもまれにみるスピードで番付を駆け上がってきた。あまりの出世の速さに、髪の伸びが追いつかず、今場所は前代未聞の“チョンマゲ大関”として登場する。ここまで駆け上がってきた勢いのまま、さらに上へと突き抜けていけるのか、さすがにここで一旦停止となるのか、今場所は、今後の大の里を占う場所になる。 初日の相手はこのところ進境著しい平戸海。大の里とは同い年だが、こちらは中卒入門のたたき上げ。長崎出身のご当所力士であり、新大関に勝るとも劣らぬ声援を背に土俵に上がった。 立ち合い、大の里はモロ手突きを選択したが、そこに平戸海の低く、鋭い立ち合いが刺さった。平戸海は得意の左前廻しこそ取れなかったが、その低さを生かしてそのまま掬うように左を差すことに成功した。この立ち合いで、モロ手突きにいった大の里は腕を伸ばすことができず。おそらくその次のモロ差し狙いという相手の動きも想定内になかったに違いなく、とっさに探った右上手にも手がかからずに、防戦一方となった。 ここぞと白房下方向へ攻めて出る平戸海。しかし、二本差されても、上体を起こされてはいなかったところに、大の里の勝機は残っていた。とっさに上手を探りにいった右とは逆の左からの突き落とし。これで急いで出ようと頭が突っ込んでいた平戸海の体を飛ばし、白星を拾った。 「少しヒヤヒヤしましたね」と大の里。場所前のインタビューでは、「大関のプレッシャーはないです」と語っていたようだが、この日の結果からすると、立ち合いが中途半端になってしまった感は否めず。やはり大の里も人の子だったということか。 ただ、その一言に続けて「先場所も初日ヒヤヒヤしたので……」と続けたあたりには、やはり悠揚迫らぬ大物感も漂う。思い返せば、先場所の初日も、熱海富士を相手に物言いがつくきわどい相撲の末、叩き込みで白星を拾うスタート。そこから優勝へとつなげた。 そう考えれば、決していい内容とは言えないものの、結果として白星を手にできたことは大きい。最初が黒星だと、プレッシャーはどんどん大きくなるが、星さえ挙がっていれば、気分的にはだんだん慣れるにしたがって余裕も出てくるはずで、そうなれば自分らしい相撲もおのずと出てくるはずだからだ。あす以降、どの時点で迷いのない立ち合いが戻ってくるかが見どころになってこよう。 横綱照ノ富士が休場する中、この日は、この大の里のほか、琴櫻、豊昇龍も白星スタートと、大関陣が安泰で土俵を締めた。中でも内容がよかったのは豊昇龍で、鋭い当たりから先手先手で王鵬を攻め切る、場所前に伝えられた好調を裏付ける内容。大関として初めての優勝へ、気合十分だ。 一方、先場所12勝を挙げ、3大関に伍して優勝を争っていく候補かと目されていた霧島が、若隆景に屈して黒星スタート。霧島もそう悪い相撲ではなかったが、それだけに若隆景の低く鋭い攻めが際立った一番だった。どうやら今場所は、この若隆景が、序盤戦のカギを握る存在になってきそうだ。 文=藤本泰祐
相撲編集部