「少女像」展示中止が波紋 そもそも「慰安婦問題」とは?
文政権によって無視された2015年の日韓合意
日韓間では、2015年12月、岸田文雄外相と韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相との会談で慰安婦問題を最終的に解決することが合意されました。具体的には次の内容でした。 ・日本政府は、元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置として10億円を拠出する。 ・安倍首相が心からおわびと反省の気持ちを表明する。 ・韓国政府は、在韓国日本大使館前の少女像を撤去するよう努力する(当時は釜山総領事館前には設置されていませんでした)。 ・今回の合意の実行により,この問題は「最終的かつ不可逆的に解決される」。 ・両国政府は、今後,国連等国際社会において互いに非難・批判することを控える。 そして2016年7月、韓国政府は日本からの拠出金により「和解・癒やし財団」を設立し、事業を開始しました。同年12月の同財団の発表によると、「合意時に生存していた元慰安婦46人のうち、34人が事業を受け入れる意思を明らかにした。そのうち31人にすでに支給を決定し、29人に支給を終えた。残りの人についても支給手続きを進めている」ということでした。 しかし翌年5月に、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が就任してから、財団による事業継続は困難になりました。文大統領は「日韓合意では元慰安婦の意見が十分反映されなかった」「不均衡な合意が一層不均衡になった」「政府間で最終的・不可逆的解決を宣言したとしても問題は再燃する」などと表明しました。 さらに日韓合意の再検証を命じ、その結果について「日韓合意は手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された。政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」と述べました。 そして2019年7月、財団はついに解散されてしまいました。少女像は依然として設置されたままです。日本政府は厳重に抗議するとともに、あくまで2015年の日韓合意に従って解決を図るべきだと強調しています。 文在寅政権による、合意を一方的に無視した行動で、慰安婦問題は解決の展望が見えない状態に戻ってしまいました。また、同政権はいわゆる「徴用工」問題に関しても日韓請求権協定に定められた協議に応じないなど、理不尽な姿勢を取っています。日本政府としては誠に遺憾ですが、粘り強く対応し韓国政府の反省を促す努力を続けるしかないと思われます。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹