「少女像」展示中止が波紋 そもそも「慰安婦問題」とは?
韓国の運動家は「日本は政府としての謝罪と補償を」
アジア女性基金による償い事業については、国際的に肯定的な評価を得ていますが、日本政府にさらなる努力を求める声も根強くあります。韓国で元慰安婦を支援している運動家はアジア女性基金を積極的に評価せず、「日本政府は謝罪と補償をすべきだ」と主張しています。 意見が分かれる原因は、1965年、日韓基本条約と同時に締結された日韓請求権協定についての法的解釈の違いにあります。 日本政府は、「請求権協定は「両国間の請求権に関する問題は、完全かつ最終的に解決された」と明記しており、元慰安婦の請求権も解決済み」であるという立場です。日本政府としては、法的責任はないが、道義的立場から生存している慰安婦に支援を行いました。
一方、韓国の運動家は、元慰安婦の請求権は消滅しておらず、財団法人であったアジア女性基金ではなく、日本はあくまで政府として公式に法的補償をすべきだという考えです。韓国政府は運動家の主張を支持し、日本政府に善処を要望してきました。 「謝罪」については、韓国の運動家は「謝罪と補償」をセットで要求するためか、前述のように宮沢首相以下、歴代の日本の首相が明確に謝罪してきた事実を無視しています。 そして、彼らはソウルの日本大使館周辺で毎週水曜日、日本に謝罪と補償を求める「水曜デモ」を主宰し、2011年には同大使館前に「少女像」を設置したので外交問題になりました。また、彼らは2016年、在釜山日本国総領事館前にも「少女像」を設置しました。
日本政府に法的責任を求めた「クマラスワミ報告」
一方、国連など多国間の場では、国連人権委員会(当時、現在は「人権理事会」)の下で1993年に特別報告者となったラディカ・クマラスワミは3年後の1996年、「女性に対する暴力とその原因及び結果に関する報告書」を発表し、その第1付属文書で慰安婦問題を論じました。その中でクマラスワミは日本政府の努力を一定程度積極的に評価し、アジア女性基金については「道義的観点からこの基金設置を歓迎するが、しかし、それは国際法上の『慰安婦』の法的請求を免れさせるものではない」との見解を示しました。そして、日本政府に対し、「日本軍によって設置された慰安所制度が国際法違反であることを認め、その法的責任を受け入れること」など6項目の勧告を行いました。 クマラスワミ報告については日本の研究者により一部内容について誤りがあることが指摘されました。特に朝日新聞がいったん報道したものの、後に偽証であったと認めた故吉田清治氏の証言を引用している点について、日本政府は2014年10月に是正を求めましたが、クマラスワミは、それは一部の問題であり論旨には影響ないとして是正に応じませんでした。 過ちを是正しないのは不合理だと思われるかもしれませんが、クマラスワミは「女性に対する差別としての暴力」という膨大な課題について調査・研究し、問題提起をしたのであり、引用した一部の資料の誤り(それは結論に影響がないと本人は説明している)を是正しなくても責められないと思います。 クマラスワミ報告は発表された際に、人権委員会で熱狂的な歓迎を受けました。その後の国際社会での展開はクマラスワミが指摘した通りの潮流になっています。この国際的大勢を軽視して、細かい事実関係の表現にこだわるべきではないと考えます。