なぜPCに「AI」が必要なのか? HPのキーマン2人に聞く
オンデバイスでAIを実行できるメリットを生かした「AI Companion」
―― 今回HPは「AI Companion」を発表した。これは、Microsoftの「Copilot」とは何が違うのか? チャン氏 Microsoftの提唱するCopilotは「Copilotキー」からのアクセスが可能であり、主にクラウドから提供される多くの「Copilot機能」を通して、ハイブリッドなAIエクスペリエンスを提供することになると考えている。 それに対して、当社のAI Companionはローカル(オンデバイス)でのAIエクスペリエンスの実現に重点を置いており、Copilotとは違った注目すべき機能を提供できる。 1つ目が「パフォーマンス」に関する機能だ。PCの統計情報を全て取得し、全てのデバイスドライバと設定が最適化されていることを確認しつつ、AIのインテリジェンスを利用して、最高のパフォーマンスを常に提供できるようになる。 もう1つが「分析」機能で、ドキュメントをクラウドに保存することなく「ChatGPT」のような機能を提供できる「RAG」(※1)という手法を用いている。RAGを使うメリットとしては、クラウドに保存したくない文書をローカルで処理できること、レイテンシー(処理の遅延)が少ないこと、そして追加のコストを払うことなく、無制限にクエリーを実行できることにある。 以上の2つが、私たちが現在AI Companionで注力しているポイントだが、ISV(ソフトウェアベンダー)と協力して、このアプリ経由でサードパーティーによる追加のエクスペリエンスも得られるようにしていく。 Retrieval-Augmented Generation:応答可能なLLM(大規模言語モデル)に対して、信頼できる特定の情報源を接続することで専門性の高い回答や意図した応答を得られるようにする仕組み
PCのスペックの“バランス”をどう考える?
―― Microsoftの「Copilot+PC」もそうだが、最近PCに求められるスペックが一気に引き上げられる傾向にある。メモリとストレージ容量のバランスについて、どう考えているのか? チャン氏 まずメモリの話をすると、スピード面は規格が「DDR4」から「DDR5」に移行する過程で、サイズとパフォーマンスの両方が向上した。「今後(スペック面で)何を期待するのか?」が質問の趣旨だと捉えるが、AIの文脈で考えればより多くのプロセッサパワーを要求されるのは間違いない。同時に、そのパフォーマンスはメモリに縛られており、特にローカルで言語モデルを実行しようとすると、特にメモリが重要となる。 歴史的に、PCで優れたパフォーマンスを得るには少なくとも8GBのメモリが必要とされているが、業界として実際には16GBが最低ラインだと考えている。そして将来的には、より多くのAIモデルが効率化され、それを実行するのに32GBがちょうどいいサイズになる可能性があると思われる。特に大学でSTEM(※2)を学んでいる学生や、フリーランサーとして大量のデータや動画編集を扱っている人には、32GB(のメモリ)はちょうどいい出発点になるだろう。 (※2)科学/技術/エンジニアリング/数学 ストレージ容量については、こちらもPCのプライバシーを保護しつつ、動画を録画する場合に、いわゆるバックアップを行うアプリが登場することになる。現状では512GBや1TBがボリュームゾーンだが、PCで行う作業次第ではあるものの、より多くの容量が多く求められるようになり、人によっては「スペースは多いに越したことはない」という状況だといえる。 ―― AI PCでは内蔵NPUのスペックが重視される傾向があるが、この数字は今後も増え続けると考えているのか? チャン氏 現状のAI PCでは、NPUの性能は40~50TOPSクラスが最高レベルだが、特定のアプリではピーク性能を向上すれば、よりパフォーマンスも向上することも分かっている。この話はNPUのみならずGPUにもいえることで、多くのアプリではGPUの方がプログラムを書きやすいという事情がある。 例えば今回のイベントではCyberLinkとのデモを紹介した。彼らは画像生成はNPU、言語理解はGPUを用いて処理を行っている。つまり、実際のAI処理はNPUとGPUの両方を用いているわけで、重要なのは(処理に使うプロセッサの)組み合わせだと考える。 NPUは、特定のアプリを実行するのに優れ、非常に電力効率がいい点が特徴だ。過去のPCの歴史を考えれば、NPUに求められる期待値は今後も上がると推測され、5年後のヘビーユーザーにとっては「40TOPSでは足りない!」ということになるかもしれない。 例えが正しいかは分からないが、NPUの存在はハイブリッドカーのようなものだと考えている。全ての道をバッテリー(のみで動く電気自動車)で走るのが現実的ではないが、これはPCにおけるNPUにも当てはまる。NPUは特定の用途に優れた能力を発揮し、CPUとGPUもまた、特定の用途において秀でている。適切なバランスが重要だ。 ―― HPを含むPCメーカーは、2023年末からIntelの「Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)」を搭載した「AI PC」順次発売した。しかし、同プロセッサを搭載するノートPCは、要件の都合でMicrosoftの「Copilot+ PC」のブランドを冠するには至らず、先行して購入したユーザーを失望させている可能性がある。このことをどう考えるか。 チャン氏 確かに、Intelが「AI PC」と呼んだCore Ultraプロセッサ(シリーズ1)のNPUは、ピーク性能が17TOPSで、Copilot+PCの40TOPSという要件を満たせない。だが、重要なのはCopilot+PCはあくまでもAI PCの一側面であり、全ての体験がCopilot+ PCの求めるスペックを必要とするわけではない。現時点で最新のPCを購入すれば、以前のモデルと比べて優れているのは間違いない。お金を少し多めに払うことで、性能に“余力”を持たせられる。 一方で、(前世代のモデルを含む)AI PCを購入することは、今日でもパフォーマンスの面で優れた体験を得られることは確かだ。PCで何をしようとしているのかが重要だと考える。私たちは、単に道を走りたいだけのユーザーに、SUVや定員の多い大型車を販売しようとしているわけではない。