「ジャイアンツはこんなに“練習しない”球団なんだ…」40歳落合博満が巨人初キャンプで厳しい本音「中日よりもロッテよりも…練習量は半分以下」
槙原がビックリ「落合さんが1人で鍋を食べている!」
自分が何か言うとすぐ問題になるからと、「キャンプでは貝になる」宣言をするオレ流だったが、新たな職場環境を冷静に見極めていた。そんな元三冠王に対して、当然どんな人なのだろうとチームメイトも興味を持つ。宮崎キャンプの食事は、ホテルの宴会場にバイキングなどが用意されるが、落合はそこにまったく姿を現さず、寝ているかもしれないと部屋の近い槙原寛己が呼びに行かされたという。すると、部屋の中からはなにやら話し声と、美味しそうな匂いが漂ってきた。えっ……いったい何をやっているのだろう? そのときの衝撃を槙原は、こう振り返っている。 「扉を開けると、落合さんが、部屋で携帯用のガスコンロとともに、淡々と話しながら、鍋を食べてるんです! そしてその対面には誰もいない! 鍋を食べながら、一人でいろいろ話してる。気づけば部屋の外には食材を持った仲居さんがやって来て、その食材を、落合さんに届けて行きます。それも、何人も何人も、いろいろな具材を、入れ代わり、立ち替わり」(プロ野球 視聴率48・8%のベンチ裏/槙原寛己/ポプラ社) ひとり独演会をかましながら、晩酌もしつつ2時間近くかけて豪華な鍋を平らげる孤高の大打者。中日時代からロッカールームを綺麗に整頓する几帳面な一面を持つ男は、無類の漫画好きとしても知られ、キャンプでも部屋に200冊近い大量の漫画本を持ち込んだ。ジャンルは多岐にわたり、『ギャンブルレーサー』や『ナニワ金融道』だけでなく、『美少女戦士セーラームーン』全巻も網羅していたという。休日は外出することもなく、好きな漫画を読み、11時間半も寝て、スポーツニッポンには「寝る子は打つ」の見出しが躍った。オレ流は、グラウンド内ではチームのやり方に可能な限り合わせたが、プライベートで巨人ナインに溶け込もうと、媚びるようなことはしなかった。 もちろん巨人サイドも個人主義の落合が、新天地に早く馴染めるように、万全の体制で迎え入れていた。この年から、宿舎でベテラン勢には個室が与えられる一方で、第1クール最終日の2月3日には長嶋監督主催の懇親食事会が行われ、第2クール最終日の8日にも吉村選手会長が歓迎会を企画した。選手たちに打撃のアドバイスを送る姿は“落合道場”と称され、キャッチャーの村田真一はこれまでマスク越しに見てきた最強打者の部屋を自ら訪ね、直接指導を受けた。キャンプが進んでも、危惧されたチーム内の不協和音は聞こえてこなかった。 だが、そんな思いのほか静かな落合や長嶋巨人に対して、ある男がマスコミを通して盛んに挑発を繰り返す。 ヤクルトの野村克也監督が、“口撃”を開始したのである。 <前編から続く>
(「ぶら野球」中溝康隆 = 文)
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