中谷美紀さん「"手放す”が人生の指標に」NY公演で学んだ大切なこと、夫のショックな一言も
ひとりの男の13年間にわたる不倫の恋を、妻・愛人・愛人の娘の3通の手紙によって浮き彫りにした井上靖原作の恋愛心理小説『猟銃』。これを舞台化し、中谷美紀さんがひとり3役を演じた『猟銃 The Hunting Gun』が、2023年3月にニューヨークで上演されました。 舞台の本場に乗り込んだ中谷さんが、59日間に渡る怒涛の日々を綴った日記エッセイ『オフ・ブロードウェイ奮闘記』(幻冬舎文庫 ・5月22日発売)を上梓。執筆の動機から、今回の挑戦で得た気づき、そしてこれからについて伺いました。
400字詰め原稿用紙780枚。克明に綴った59日間の記録
「ニューヨークに着いて、演出家のフランソワ・ジラールさんと最初に食事をした折り、それが2023年2月19日だったのですが、そのまさに1年前の2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始した夜に、彼はモスクワのボリショイ歌劇場でリヒャルト・ワーグナーの『ローエングリン』のプレミアを迎えていたと言うのです。 その後の展開は、もう想像を超える壮絶なお話でした。ちょうど同じ頃、夫が所属するウィーンフィルもロシア人指揮者ヴァレリー・ゲルギエフ氏の降板という悩ましい問題を抱えていたものですから、私にとっては非常に身近な出来事でもあり、一人の芸術家として、この時代を生きる人々の言葉を書き留めておかねばならないという、ある意味使命感をかきたてられたのです」 共演者であるミハイル・バリシニコフさんの存在も。「1974年に当時のソビエト連邦から亡命なさったバリシニコフさんは、バレエ史のすべてを体現した唯一のアーティストです。彼の創作過程は、“人類共通の財産”なのではないかと。ジラールさんやバリシニコフさんの魂が、少しでも多くの方に伝わればいいなという思いで書かせていただきました」 <写真>2023年にニューヨークで公演された舞台『猟銃 The Hunting Gun』より。自らを嘲りながらしたたかに生きる妻・みどりの情念を力強く演じた中谷さん。