中谷美紀さん「"手放す”が人生の指標に」NY公演で学んだ大切なこと、夫のショックな一言も
まさに開戦の瞬間にクレムリンのあるモスクワにいた存在として語られる演出家のジラールさんの言葉はもちろんのこと、共演者であるミハイル・バリシニコフさんの存在にも使命感を駆きたてられたという中谷さん。 「1974年に当時のソビエト連邦から亡命なさったバリシニコフさんは、クラシックからモダン、コンテンポラリーへと、バレエ史のすべてを体現した唯一のアーティストです。少し大げさかもしれませんが、バリシニコフさんの創作過程は、“人類共通の財産”なのではないかと。ですから、私自身の愚痴日記の要素も含まれてはいますが、ジラールさんやバリシニコフさんの魂が、少しでも多くの方に伝わればいいなという思いで今回は書かせていただきました」 <写真>2023年の舞台『猟銃 The Hunting Gun』の稽古の様子。ミハイル・バリシニコフさん(中)、2011年の舞台から『猟銃』の演出を手掛けるフランソワ・ジラールさん(右)と。
夫に言われたショックな一言
ベッドに横たわってパソコンのキーボードを打っていたという中谷さん。本書には、2018年に結婚したパートナーのティロ・フェヒナーさんも度々登場します。今回の挑戦、そして59日間に及ぶニューヨーク滞在において、フェヒナーさんの助言や支えもさぞかし大きかったと思われます。 「彼はビオラ奏者で、ジャンルは異なれど同じパフォーミングアーツの世界におりますので、彼からの指摘には学ぶことも多く、とてもありがたい存在でした。リハーサルで声を潰した状態で電話をしたときは、『リハーサルで本気を出すのは二流、三流がすること。君がそんなに三流だとは思わなかった。ショックだよ』と言われて、私自身もショックでした(笑)。勤勉な日本人は、リハーサルから120%を捧げてしまうものですから。 稽古中には、彼が所属するウィーンフィルのニューヨーク公演がありましたので、演奏を聴きに行ったり、一緒に散歩や食事をしたりして息抜きができました。公演中には、体調を崩したわたしを心配してニューヨークまで来てくれまして、公演を観た率直な感想として、声や音の聞こえ方についてのアドバイスもしてくれました」