マインドの中心に据えたのは「試合に出られるか」ではなく「チームが勝てるか」。山口内定の大阪体育大DF峰田祐哉が貫いたキャプテンとしての在り方
[12.22 インカレ準々決勝 東洋大 3-1 大阪体育大 さくらスタジアム] それはもちろんいつだってピッチに立っていたいけれど、それだけが自分の仕事ではない。チームがうまく回るように、チームメイトたちが100パーセントの力を出し切れるように、今やるべきだと信じたこととずっと向き合ってきたが、正解にたどり着けたのかどうかは、いまだにわからない。 【写真】「美しすぎ」「めっちゃ可愛い」柴崎岳の妻・真野恵里菜さんがプライベートショット披露 「試合に出たい感情はどの選手にもあると思うんですけど、それを優先することは絶対にしないと自分に言い聞かせて、自分の私利私欲に走ることなく、チームの勝利を優先にずっとやってきた中で、本当に難しくて、苦しくて、つらかったですけど、こういった経験は誰でもできることではないと思いますし、サッカー選手としても、人としても、本当に成長させてもらったなと思います」。 激闘のグループリーグを勝ち抜け、ベスト8まで勝ち上がってきた大阪体育大(関西4)を束ねるキャプテン。DF峰田祐哉(4年=東海大相模高/山口内定)はかけがえのない経験を手にした大学ラストイヤーを戦い抜き、来季からプロの世界へと飛び込んでいく。 キャプテンという役割を託されて挑んだ2024年は、峰田にとって苦しい1年だった。「関西のリーグも最初の方は出させていただいていたんですけど、少しずつ自分のコンディションやフォーカスしているところと、チームの狙いとしているところが合わなくなっていって……」。 4月には早々と来季からのレノファ山口FC加入内定が発表され、周囲から見られるハードルも確実に上がった中で、前期のリーグ戦は基本的に大半のゲームでスタメンに指名され、全11試合でプレーしていたものの、後期は少しずつ出場機会が減少。ベンチからチームメイトを見つめる時間が増えていく。 「『何で試合に出してくれないんだ!』という感情を捨ててしまったらサッカー選手として終わりだと思うので、それは絶対に捨ててはいけないですけど、それを自分が表に出して感情的になったり、チームの輪を乱すようなことは絶対にしてはいけないし、むしろそれをうまくまとめるのが自分の立場なので、そのバランスは本当に難しかったですし、何が正解なのかは今でもわからないですね」。 2年時からリーグ戦のメンバー入りを果たすと、昨シーズンの後半戦からレギュラーを獲得。高校時代も早い段階からゲームに出場していたため、味わったことのないシチュエーションをキャプテンという立場で突き付けられた峰田の心中は、察して余りある。 「正直こういう苦しい時期を経験したことはあまりなかったので、自分としても最初は感情的になってしまうこともあったんですけど、自分がそういう状態になった時にチームに与える影響もまだわからなかったので、そこで自分の未熟さも知りましたし、よりキャプテンとしての自覚が芽生えました」。 改めてマインドの中心に据えたのは、『試合に出られるか』ではなく、『チームが勝てるか』。リーダーとしてできることを1つずつ、確実に、丁寧に、積み重ねる。結果的に後期のリーグ戦出場はわずかに3試合。インカレの直前までは教育実習でチームを離れる期間もあったが、「その間のチームマネジメントは古山(兼悟)や木戸(柊磨)や山田(和樹)がやってくれていたので、感謝しています」と峰田。チームは一体感を高めて、シーズン最後の全国大会へと歩みを進めてきた。 グループリーグは1勝1分け1敗で2位通過。最終節で後半35分から投入され、今大会初出場を果たした峰田は、全国4強を懸けたこの日の東洋大(関東3)戦もサブからのスタート。チームメイトたちを信じて、ベンチから戦況を見つめる。 試合前から吹き付けていた強風の中、風下に立った大阪体育大は前半だけで2点のビハインドを背負う展開に。後半も追加点を許したものの、今度は風上の勢いも生かしつつ、ロングスローの流れからDF池戸柊宇(1年=京都橘高)が1点を返す。 後半35分。チーム最後の交代カードとなる5枚目として、背番号5がピッチサイドに現れる。MF山田和樹(4年=立正大淞南高)から黄色い腕章を受け取り、自らの左腕にしっかりと巻きながら、峰田は勝負のグラウンドへと駆け出していく。 「もうオープンな状況になっている展開だったので、残り15分ぐらいでガンガン行くことと、自分がチームに勢いをもたらすことにしかフォーカスしていなかったので、良い意味で特にいろいろと考えることなく、ただガムシャラにやることだけを意識してピッチに入りました」。とにかく走る。ゴールを奪うために。勝利を引き寄せるために。もっとこの仲間たちと過ごせる時間を引き延ばすために。峰田はとにかく走り続ける。 5分間のアディショナルタイムが経過すると、タイムアップのホイッスルが寒い空気を切り裂く。「あまり覚えていないですね。どんなことを思ったんだろうなあ……。感情は最後に挨拶する時まで出てこなくて、ちょっとわからないですね。本当に何も考えられなかったと思います」。ファイナルスコアは1-3。チームメイトを促し、スタンドへの挨拶を終えると、少しずつ甦ってきた感情が涙腺を刺激して、少しだけ泣いた。 実はこの日の一戦では盟友と誓い合っていた“再会”があった。東洋大のMF増田鈴太郎(4年=東海大相模高)は高校時代のチームメイト。お互いにベンチスタートだったが、揃って後半から投入されたことで、2人は違う色のユニフォームを纏って、15分近い時間を同じピッチで共有した。 「アイツはこれから実家に帰った時も絶対に会いますし、高校のサッカー部の中で一、二を争うぐらい仲のいいヤツなので、お互いに『今日は出ようね』と言っていた中で、両方ベンチからだったんですけど(笑)、ピッチでハイタッチした時に『ああ、ここまでやってきて良かったな』と思いましたし、『アイツが高校の同級生で良かったな』と思いました」。大学最後の試合で実現した“再会”に、きっと彼らをよく知る東海大相模の旧友たちも、大いに喜んだに違いない。 年が明ければ、もうJリーガーとしての新たなステージが幕を開ける。多くの人たちの期待や夢を背負って、プロの世界へと踏み出していく。 「今のレノファはJ2にいますけど、今年も凄く良い戦いをしているのを見ていたので、絶対にJ1に上げたいですね。自分は上手い選手ではないですし、まだまだプロに入ってもすぐに通用するレベルではないので、そこは愚直にやっていかないといけないと思いますし、自分は『この人、凄いな』と思ってもらえるプレーを目指しているので、泥臭くても人の心に残るような、皆さんに喜んでもらえるようなプレーをしたいです」。 自分の中に刻んできた嬉しさも、悔しさも、歓喜も、後悔も、すべてはサッカー選手としてのいまを構成する糧になる。峰田祐哉が大阪体育大のキャプテンとして堂々と振る舞ってきた背中には、これからも多くの人のエールが、舞い降りる雪のように積み重なっていく。 (取材・文 土屋雅史)
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