顔面神経が麻痺している女性に向かって嫌味を言い放つ「意地悪型認知症」の困った言動
老いればさまざまな面で、肉体的および機能的な劣化が進みます。目が見えにくくなり、耳が遠くなり、もの忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍くさくなり、力がなくなり、ヨタヨタするようになります。 【写真】「うつによる仮性認知症」と「本来の認知症」の見分け方 世の中にはそれを肯定する言説や情報があふれていますが、果たしてそのような絵空事で安心していてよいのでしょうか。 医師として多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見てきた経験から、初体験の「老い」を失敗しない方法について語ります。 *本記事は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
“笑い型”は楽しい
ある八十歳の男性は明るい認知症で、プログラムで歌うときには率先して大きな声を出してくれるし、職員の軽い冗談にも大笑いしてくれます。足は弱っていて、歩くのはままなりませんが、席に着いているときはいつも元気で、誕生日会のときなども率先して盛り上げてくれます。職員に用事があるときには、「幹事さん!」と大きな声で呼びつけ、まるで宴会気分です。 因みにデイケアの職員は、看護師であれ介護士であれ、利用者からは「ネエちゃん」「先生」「店員さん」などと呼ばれていました。 デイケアの利用者ではありませんが、私の父も“笑い型”の認知症でした。 もともとサービス精神の旺盛な父だったので、寝たきりの認知症になってからも大いに周囲を笑わせてくれました。たとえば、ベッドの横を空けて寝ているので、「どうしたの」と聞くと、「今、マッカーサーがあの世から降りてきて、ここに寝てるんや」と言います。 「でも、言葉は通じるの」と聞くと、「ギリシャ語やから大丈夫や」と、英語より通じにくそうなことを言い、自分でも「アハハハ」と笑うのです。 ほかにも嫌いな政治家がテレビに映ると、テレビに念力をかけると称して、「○○、消えろ!」と、テレビに向けて指を突きつけます。テレビの画面は変わりますから、その政治家が映らなくなると、「ほら、消えた」とご満悦でした。 父はレビー小体型でしたが、先にも書いた通り“多幸型”が多いのはアルツハイマー型で、周囲のことはわからなくても、いつもニコニコして機嫌よくすごしていることが多いようです。 奄美大島出身でアルツハイマー型の認知症のFさん(81歳・女性)は、デイケアのアイドル高齢者のひとりで、認知症は重度でしたが、何がそんなに嬉しいのかと思うほど、常に笑顔を絶やさない人でした。まったくしゃべれないので、会話は成り立ちませんが、目が合うとしばらく見つめたあと、「プッ」と吹き出して、目を逸らします。それがまるではにかみ屋の少女のようなかわいらしさなのです。だから、職員の間でも人気があって、食事やトイレ誘導などは手がかかりますが、みんな喜んで介助していました。