誤報とソーシャルメディア ~「朝日新聞問題」から考える~ 藤代裕之(ジャーナリスト)
慰安婦報道、吉田調書、池上彰氏の原稿不掲載などの一連の不祥事に揺れた朝日新聞。インターネット上では、検証記事の内容や訂正のタイミングなどについての批判が起こり、朝日新聞社の記者はツイッターを使って自社の報道姿勢に不快感を表した。読者や記者がインターネットを活用して情報発信する時代、報道機関は誤報の問題にどう向き合うべきか。ネットとジャーナリズムに詳しいジャーナリストで法政大学准教授の藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)氏に聞いた。 【動画】朝日新聞が「吉田調書」報道で誤り認め謝罪
朝日新聞は9月11日に記者会見を開き、従軍慰安婦問題に関する「吉田証言」と福島原発事故に関する「吉田調書」について記事取り消しと謝罪を行いました。一部メディアやネット上では朝日叩きが続いていますが、情報を伝えることに間違いはつきものです。ソーシャルメディア時代の報道機関にとって重要なことは、間違いにどう向き合うかではないでしょうか。 マスメディアの訂正や謝罪は多くがひっそりと行われてきました。私たちは記事掲載から、訂正・謝罪までのプロセスを知る事は出来ませんでしたが、ソーシャルメディアの登場によって、断片的ながら把握できるようになりました。 「吉田調書」報道の幕開けはツイッターによるスクープ予告でした。力の入った特集ページも用意されましたが、記事が公開されると疑問の声が上がります。ジャーナリスト門田隆将さんがブログで、東京電力の社員が吉田昌郎所長の待機命令に違反して撤退したという内容は事実関係と異なるのではないかと指摘したのです。 広がる批判に対して朝日新聞が取った手段は、抗議と法的手段を用いることを示唆するという「脅し」でした。言論で勝負する報道機関として恥ずかしい対応でしたが、ツイッター記者たちの声が大きくなることはありませんでした。この時点では記事の見直しは行われなかったことが記者会見で明らかになっています。朝日新聞は最初のチャンスを見逃してしまったのです。 次に「吉田証言」の検証と記事取り消しに関して、ジャーナリスト池上彰さんのコラム掲載拒否騒動が起きます。朝日新聞は、都合の悪い言論を封殺しているのではないかとの声が広がり、30人を超えるツイッター記者が社の対応を批判しました。記者の発信に支持が集まり、掲載拒否は覆りました。池上さんという著名ジャーナリストの警告と、自社を批判する記者によって、朝日新聞はギリギリ踏みとどまることができたと言えるでしょう。