格ゲー版『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の意外な完成度と、開発した“腕利き”会社の過去といま
2024年1月26日に公開された劇場アニメ『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は、興行収入50億円、観客動員300万人を突破する大ヒットを記録。全国公開終了後も、本編映像をアップデートした特別編の上映のほか、前日譚となる『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM ZERO』の制作決定が発表されるなど、高い人気と話題性を保ち続けている。 【画像】名作と名高い格ゲー版『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』と本作を手掛けた開発会社ナツメアタリのゲームたち 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は、2002年から2003年放送のテレビアニメ『機動戦士ガンダムSEED』(以下、SEED)、その続編として2004年から2005年に放送された『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(以下、DESTINY)に続く、新たな物語を描いた作品だ。 制作が発表されたのは『DESTINY』の放送終了翌年、2006年のこと。その当時は2007年上映予定とされていた。しかし、最終的に上映へと至ったのは初報から18年後の2024年。『DESTINY』のテレビアニメ放送開始から、20年目となる年のことだった。 そんな『DESTINY』は、2024年10月9日をもって1話の放送から20年が経過。そして2024年11月25日には、もうひとつの『DESTINY』が20年目を迎えた。ゲームボーイアドバンス用ゲームソフトとして発売された、対戦格闘ゲームの『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』だ。 時期的にはテレビアニメの6話と7話の間に発売された本作。まだアニメ本編が始まってから、3ヶ月(1クール)も経過していないタイミングである。それもあって「販促目的の勢い任せに作られたゲームじゃ……」との警戒心や先入観を抱きやすい側面があった。 ところが実際は、それらの思いをひっくり返す、完成度の高い対戦格闘ゲームに上げられていた。劇場版のヒットもあって、「SEED」シリーズ全体の人気が熱を帯び続けるこのごろ。この意外な力作と、それを制作した“腕利き”たちの過去といまに迫りたい。 ■原作由来の独自要素が自然に溶け込んだ、高い完成度を誇る対戦格闘ゲーム この“格ゲー版『DESTINY』”とも称せる本作の基本的な内容は、一般的な対戦格闘ゲームと変わりない。自機であるモビルスーツ(以下、MS)を操縦し、相手MSとの1対1の戦いを繰り広げていくというものだ。 制限時間付きのラウンド(PHASE)制で進行する仕組み、規定ラウンド数を取ったかで決する勝敗、体力ゲージの残量に基づくラウンド奪取の条件など、システム周りも対戦格闘ゲームの定番に則っている。 独自要素としては「PS(フェイズシフト)装甲」「バーサーク」「OS設定」の3種類。 「PS装甲」は原作の「SEED」シリーズに登場する、特殊金属を用いた装甲だ。それを指す「PSゲージ」なるものが体力(HP)ゲージの真下にあり、主にビーム兵器の攻撃を繰り出す、相手の打撃や実弾による遠距離攻撃を受けた時に低下する。 PSゲージが0になると「フェイズシフトダウン」が発生。打撃、実弾を受けた際のダメージが増えると同時に、ビーム兵器の攻撃力が低下した危険な状態に陥る。ちなみにMSの中には「PS装甲」を持たない機体も存在。その種のMSにもPSゲージは表示されるが、フェイズシフトダウンを起こしても、ビーム兵器の攻撃力が低下しないという特徴がある(逆にPS装甲持ちのMSと違い、ダウン発生前でも受けるダメージがやや高め)。 もうひとつの「バーサーク」は、1ラウンドにつき1回だけ使える攻撃力上昇機能。「SEED」シリーズで言う「種割れ」だ。この状態になると、強力な「超必殺技」が使えるようになる。ただし、使えるのは1度きり。また、発動中はPSゲージが徐々に消耗していくため、フェイズシフトダウンに注意する必要がある。 残る「OS設定」は「エネルギーゲージ」と「PSゲージ」、そして空中移動の際に消費する「スラスターゲージ」のバランスを調整する機能。本作は戦闘開始前、このゲージそれぞれの長さをプレイヤー好みにカスタマイズする形となる。調整範囲は50%から150%と広いが、1つの項目を増やすと、必ず「スラスターゲージ」が低下。そのため、全ゲージ150%の完全無欠なカスタマイズは不可能。どのステータスに秀でた設定にするかはプレイヤー次第という、ほどよく頭を悩ませる作りとなっている。 これらの独自要素に加えて、アクションおよび技周りでは受け身(※空中にも対応)、ガードキャンセルとカウンター、チェーンコンボといった、2000年代当時の対戦格闘ゲームにおけるトレンドとなっていた要素を網羅。 さらに「NORMAL PLAY」「MANUAL PLAY」という2種類の操作スタイルがあり、「NORMAL PLAY」であれば、ワンボタンおよび十字キーとの同時押しだけで、簡単に必殺技などを繰り出せるようになる。逆に「MANUAL PLAY」は一般的な対戦格闘ゲームと同じで、各種攻撃技をコマンド入力で応じる上級者向けのスタイルとなっている。 こういった「SEED」シリーズ特有の要素をシステムに落とし込みつつ、対戦格闘ゲームとしての基礎とトレンドを押さえ、果ては初心者へのフォローも凝らすという手の込んだ内容に仕上げられている。それでいて、ゲームスピードも遅すぎず早すぎずの塩梅を維持。操作のレスポンスも迅速かつもたつきにくく、手触りの面でも抜かりがない。 演出も超必殺技の発動時には、専用のカットインがボイス付きで挿入。戦闘中も画面が上下に動くことに加え、派手なエフェクトが炸裂するなどなかなか派手。 極め付けがボリュームだ。12体のMSと戦う「メインモード」に加え、「タイムアタック」「サバイバル」「チャレンジ」といった独自の遊びを設けたゲームモードが、なんと7種類も用意されている。一部のゲームモード攻略を通して得られるポイントを支払い、追加のMS(機体)などをアンロックする要素もある。 肝心のMSも『DESTINY』に留まらず、前作『SEED』から外伝作品『機動戦士ガンダムSEED ASTRAY』も含む24機+αが登場。その中には条件達成で解禁されるMSもいて、全機を使用できるようにするだけでも相当な時間と労力が必要とされる。 テレビアニメ放送中に発売された背景もあり、『DESTINY』のMSはごくわずかで、本編後半の機体は登場しない。システム周りも『DESTINY』というよりは前作『SEED』由来のものが目立つほか、ストーリーに沿って進めていくモードはなし。内容としては、ひたすら戦いに明け暮れる“エンドレスデュエル”な感じとなっている。難易度も簡単な「EASY」もあれど、基本の「NORMAL」はやや高めで結構手ごわい。 しかし、その完成度と密度は、放送中に発売されたゲームとは思えぬ高さ。原作の『DESTINY』のみならず、「SEED」シリーズをまったく知らない人から対戦格闘ゲーム初心者まで楽しめる懐の広さも押さえた、意外な力作に仕上げられているのである。 ■開発したのは過去、ガンダムの対戦格闘ゲームで確かな実績を残した“腕利き” この一連の特徴紹介を通して、おそらく疑問が浮かんだと思われる。「なぜ、そんなにも高い完成度と密度を誇っているのか?」と。 前述したように、本作が発売されたのは、テレビアニメ版『DESTINY』の放送開始から3ヶ月も経たぬころ。確かに登場するMSが限定されている制約はあるものの、ゲームとしての作りは不思議なほど洗練されている。いったい、これはどういうことなのか? その答えは、隠しゲームモードとして用意された「U.S版ガンダムSEED」にある。実は本作、『DESTINY』の前作『SEED』原作の対戦格闘ゲームとして、海外先行で発売された『Mobile Suit Gundam Seed: Battle Assault』の逆輸入兼アレンジ版なのだ。そもそも『DESTINY』のゲームではなかったのである。システム面で前作『SEED』由来のものが目立つのもこれが理由だ。 そして、海外版を含む、本作の開発を担当したのはナツメ(現:ナツメアタリ)。初期の「メダロット」シリーズや、怪作との呼び声が根強いアドベンチャーゲーム『東方見文録』、『アイドル八犬伝』などのゲームで知られるゲームソフト開発会社だ。 ナツメアタリは過去、「ガンダム」シリーズを原作とした対戦格闘ゲームの傑作を手がけた“腕利き”でもある。その“腕利き”ぶりを見せつけた傑作というのが、『新機動戦記ガンダムW ENDLESS DUEL(エンドレスデュエル)』(以下、ENDLESS DUEL)。 1995年から1996年に放送されたテレビアニメ『新機動戦記ガンダムW』を原作とする、スーパーファミコン向け対戦格闘ゲームだ。ちなみに同作は、原作テレビアニメの最終話が放送された1996年3月29日に発売された。 『ENDLESS DUEL』のサブタイトルの通り、本編にストーリー性はなく、相手MSとの戦いを繰り広げることに特化した対戦格闘ゲームとなっている。システム周りも、制限時間付きラウンド制と、規定ラウンド数先取による勝敗、1対1の戦闘形式など、対戦格闘ゲームの定番を踏襲。後年の格ゲー版『DESTINY』とほぼ一緒である。 しかしながら、非常に躍動的かつスピーディに動くMS、地上と空中で目まぐるしく展開される戦闘など、その迫力は当時、アーケード界隈で稼働していた対戦格闘ゲームに引けを取らない。さらにこの時点で、後の格ゲー版『DESTINY』にも採用されているチェーンコンボ、超必殺技、受け身といったアクションなども網羅している。 特筆すべきが「ガードダッシュ」「ガードバックステップ」、そして「ブーストジャンプ」という独自要素の存在。文字どおりガードした状態でのダッシュとバックステップ(緊急後退)、ブースターの推進力を活かした大ジャンプという、昨今の対戦格闘ゲームでも見られないであろう個性的なアクションが用意されている。それもあってか、戦闘時に繰り広げられる攻防も大変激しく、まさに息つく暇もない展開の連続。ガンダム原作のゲームという実態が薄れるほど、独自性のある格闘戦が描かれている。 操縦可能なMSも9機+α と少ないが、それぞれ個性的かつ意外な強みを持っており、やり込むたびに発見がある作りをしている。ほかにグラフィックもわずかなアニメパターンとエフェクトで躍動的な動きを実現させるという、静止画では分かりにくい匠の技が炸裂していたり、本作オリジナルの楽曲が名曲揃いといった見どころを多く持つ。 反面、難易度はスピーディな作りも相まって高め。必殺技の簡易操作などの便利機能もない。それもあって、対戦格闘ゲーム初心者にはハードル高めだが、完成度は並外れており、ガンダムという括りを外しても傑作と評せるゲームに完成されている。 当時、ガンダムの対戦格闘ゲームとしては『新機動戦記ガンダムW』の前作、『機動武闘伝Gガンダム』を原作としたタイトルがスーパーファミコン向けに発売されていたが、同作はナツメアタリではない別の会社が担当。『ENDLESS DUEL』では、ナツメアタリが交代する形となったのだが、結果的にテレビアニメ原作のゲームとは思えぬ完成度と、やり応えを誇る意外な傑作が誕生することになった。 その出来が評価されてか、1997年にはPlayStation向けにオリジナルのガンダムが登場する対戦格闘ゲーム『ガンダム・ザ・バトルマスター』を発売。後に続編も作られ、シリーズ展開を見せた。 海外でも『GUNDAM BATTLE ASSAULT』の名で展開。2000年には『機動武闘伝Gガンダム』と『新機動戦記ガンダムW』の機体が登場する、海外独自の続編も発売されている。ちなみにその続編、日本においては『機動武闘伝Gガンダム』と『新機動戦記ガンダムW』それぞれに分割した低価格ソフト『SIMPLEキャラクター2000シリーズ THEバトル』として展開されている。 その『BATTLE ASSAULT』の名のとおりだが、格ゲー版『DESTINY』は、まさしく『ガンダム・ザ・バトルマスター』の系譜に連なる作品でもあったのだ。それゆえ、対戦格闘ゲームとしての基礎部分が洗練されていた。過去に培ったノウハウを受け継いでいるためだ。 ただし、格ゲー版『DESTINY』は、『ENDLESS DUEL』と『ガンダム・ザ・バトルマスター』を開発したチームが手がけた作品ではない。この点は極めて重要ゆえ、強調しておきたい。開発はたしかにナツメアタリだが、主要スタッフは大きく異なるのである。 だが、格ゲー版『DESTINY』の元である『Mobile Suit Gundam Seed: Battle Assault』には、『ENDLESS DUEL』と『ガンダム・ザ・バトルマスター』開発したチームのひとりが特別協力としてエンディングのスタッフロールに名を連ねている。 そのことからも、ノウハウを活かして作られたゲームなのは確かと言えるだろう。それはゲーム全体の出来にも色濃く現れている。そして、そのような実績のあるメーカーが作り、海外版という下地が存在したからこそ、格ゲー版『DESTINY』はテレビアニメ放送間もない頃のゲームとしては、異例の完成度を誇るものになったと言える。 まさに“腕利き”の仕事が炸裂したのである。 ■気がつけば、20年も音沙汰のないガンダム原作の対戦格闘ゲーム なお、『ENDLESS DUEL』と『ガンダム・ザ・バトルマスター』を手がけた開発チーム(繰り返しになるが、本稿の格ゲー版『DESTINY』とは別のスタッフ)は、2024年現在もナツメアタリに所属し、現役クリエイターとして活躍中である。 本稿執筆時点での最新作は“スーパーリアリズムアクション”を謳う『闇の仕事人 KAGE Shadow of The Ninja』。1990年にファミリーコンピュータ(ファミコン)向けに発売された同名タイトルのリメイク版で、Nintendo Switch、PlayStation 4|5、Xbox Series X|S、PC(Steam)のプラットフォームで2024年8月29日より販売中だ。 この『闇の仕事人 KAGE Shadow of The Ninja』には、格ゲー版『DESTINY』でサウンドスタッフを務め、オリジナルのファミコン版でも楽曲を手がけたコンポーザー・水谷郁氏も参加。オリジナル版全楽曲のセルフアレンジに加え、リメイク版に追加された新ステージの楽曲も担当されている。 一方で、ガンダムの対戦格闘ゲームは格ゲー版『DESITNY』以降、新作は発売されていない。海外ではPlayStation 2向けに『BATTLE ASSAULT 3 FEATURING MOBILE SUIT GUNDAM SEED』なる、グラフィックをフル3Dに一新した3作目が発売されたのだが、残念ながら日本では未発売に終わった。そして気がつけば、格ゲー版『DESITNY』の発売から20年。ガンダムの対戦格闘ゲームそのものが長らくご無沙汰してしまっている。 それでも『ENDLESS DUEL』と『ガンダム・ザ・バトルマスター』の開発チームが現役であることから、前述の『闇の仕事人 KAGE Shadow of The Ninja』が発表・発売される前の筆者はひそかに楽しみにしていたことがあった。「もしかして、次回作は久しぶりのガンダムの対戦格闘ゲームになるのでは?」と。 というのも、件の開発チームこと「TENGO PROJECT」は、2016年の『WILD GUNS Reloaded(ワイルドガンズ リローデッド)』を皮切りに、スーパーファミコン向けに発売した過去作のリメイクを相次いで開発・発売していた。 そのストックが、2022年発売の『奇々怪界 黒マントの謎』でだいぶ少なくなることから、もしや……と楽しみにしていたのだ。ちょうどその当時、決闘の要素を持ったテレビアニメ新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が放送されていた背景もある。 結果は現状のとおり、『闇の仕事人 KAGE Shadow of The Ninja』が次の新作になったわけだが。そもそも、版権のあるタイトルで、ガンダム自体が国内外で高い人気と歴史を誇る作品。実現するにも、乗り越えねばならない高いハードルが存在するのは察せる。 しかし、日本では最後のタイトルとなった格ゲー版『DESITNY』の発売から20年。このまま、ガンダムという枠組みを超えた名作たちが過去のものとして埋もれていくのは惜しい。新作は難しくても、過去作を何らかの形で復刻させることはできないのだろうか。 「SEED」シリーズも20年の時を経て動きを見せ、人気を再燃させた背景がある。それに格ゲー版『DESITNY』も含む、ガンダム対戦格闘ゲームも続いて、その歴史を再確認できる機会を設けてみるのも一興では、と思うのだがいかがだろう。 何にせよ、ガンダムで格闘ゲームという異色すぎる題材を成り立たせた格ゲー版『DESTINY』と、その元となった過去作たち。いつの日か、新しい環境で遊べるようになり、幅広くその魅力が伝えやすくなるその日を待ちたいこのごろである。
シェループ