ろう文化描く「デフ・ヴォイス」、ドラマ化の背景は(後編)
2023年末にNHKでドラマ化された「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(草彅剛さん主演)。前編では、原作者の作者の丸山正樹さんに、長編ミステリー小説「デフ・ヴォイス」を書いた経緯について、伺いました。後編では、NPO法人インフォメーションギャップバスターの伊藤芳浩理事長が、ドラマ化の経緯について伺います。
■紆余曲折あったドラマ化の過程
――NHKでドラマとして取り上げられた経緯を教えていただけますか。 「デフ・ヴォイス」のドラマ化に至るまでの道のりは、長くて複雑でした。一般的に、小説の映画化やドラマ化は原作者が決定するものではありません。ドラマ制作者の、私の作品に対する関心は、一作目が出た頃(約12年前)からありましたが、幾度となく企画が流れることが続いていました。 民放から「社内会議にかけたい」というオファーや、著名俳優の起用が決まって、映画化がほぼ決まりかけた経験もありましたが、さまざまな事情で実現には至らなかったのです。 そんなことが10年近くも続き、もうこれはダメかな、と諦めかけた頃、3年ほど前、NHKの企画が持ち上がりました。正確には、角川大映スタジオという制作会社から「草彅剛さん主演で『デフ・ヴォイス』を」という企画がNHKに提案され、NHKが採用した形です。 正式にNHKで制作すると決まったのは2年半ほど前のことでした。NHKは全国放送で、質の高い作品を作ることで知られているため、非常に嬉しかったです。 しかし、これまでの経験から、決まったと聞いても安心はできませんでした。途中、プロット(あらすじのようなもの)や脚本が送られてきて意見を求められたり、草彅さん以外の配役が決まったりしたのですが、それでもまだ「実際に撮影されるまでは何が起こるか分からない」と思っていました。 脚本については、プロットの段階から送ってもらい、意見を求められました。すべての意見が採用されたわけではありませんが、制作チームが原作と原作者を尊重してくれたと思います。これは、プロデューサーや監督、脚本家の皆さん全員が「デフ・ヴォイス」という小説を気に入ってくれたからだと思います。原作者としては幸せな制作過程だったと思います。