<ラグビー日本選手権>帝京でも勝てなかった社会人の壁
勝負を分けたキックの多用
かたやトヨタ自動車は、「フィジカルラグビー」をお家芸とする。要は、こちらも1対1とブレイクダウンにプライドを賭けているのだ。今年度はトップリーグの中盤にやや足踏みも、日本選手権出場枠を争うワイルドカードを含めて5連勝中だった。スタンドオフ文字隆也副将がチーム本来の持ち味を活かすよう心がけ、チームの迷いを消していた。 学生王者との対戦が決まると、廣瀬佳司監督は「トップリーグでやるようにやってくれれば」と口にした。1対1とブレイクダウンについては、「会場の雰囲気から、レフリーの方の視点も学生寄りになってしまうかもしれない。そういうものも受け入れないといけない。勢いに任せるのではなく、正確なプレーをする」。この集団は06年2月12日、当時の大学チャンピオンだった早大に24-28で敗れている。場所は秩父宮だった。帝京大戦を約1週間後に控えたあたりで、首脳陣は選手に当時の映像を観せた。廣瀬監督は「雰囲気に飲まれないように」と、気を引き締めていた。 その肉弾戦は、ほぼ互角だった。例えば前半21分には、グラウンドの真ん中あたりでこんなせめぎ合いが合った。帝京大のフルバック竹田宜純が持つ球をトヨタ自動車のセンター山内貴之がむしり取ったかと思えば、それを起点とする連続攻撃のパスが乱れると、帝京大のフォワード陣がターンオーバー。ここからセンター中村主将のパスへ走り込んだフルバック竹田は、今度は真っ直ぐ守備網を突っ切る。トヨタ自動車が肉弾戦で再び球を奪うまで、帝京大のフェーズが重なる…。 帝京大のセンター中村主将は、「相手のプレッシャーはありましたけど、負けているとは感じなかった。(肉弾戦が)自分たちの強みだと確認できた」と率直に語った。対するトヨタ自動車の上野隆太主将も、「プレッシャー、ありました」。リップサービスの側面もあろうが、こんな見解を示すのだった。 「トップリーグでもなかなか経験できないクイックテンポで(ボールを)出される場面もあって、学生レベルを越えているイメージはありました」