■ぬくもりは不変

設計を担当した河合浩蔵（1856～1934年）は、日銀大阪支店を手掛けた辰野金吾とほぼ同世代。すでに60代半ばのベテランだったが、国内外の建築の動向にアンテナを張り、新しいスタイルにも意欲的に挑戦した建築家だった。

河合の創意工夫のあとが残る旧報徳銀行大阪支店の建築。だが銀行だった時代は、昭和初期の金融恐慌によってわずか5年ほどで終わった。その後は新井証券が建物を取得して新井ビルとなり、現在はテナントビルとして活用されている。北浜の一等地にあることから建て替え計画もあったが、建物の価値を重く見たオーナーや関係者の努力によって築100年を超えた今もその姿を見ることができる。

義間支配人に見せてもらった資料の中に、戦前に撮影された新井証券時代の営業室の写真があった。従業員をはじめ、大勢の人が2階の回廊にまで並び、カメラに笑顔を向けている人もいる。

今ではこの営業室のあった場所に五感が店を構え、たくさんの来店客でにぎわっている。人のぬくもりが絶えないこのビルは、つくづく幸せな建築だと思う。（荒木利宏）

新井ビル

・大阪市中央区今橋2－1－1

・竣工　大正11年

・構造　鉄筋コンクリート造り（地上4階、地下1階）

・設計　河合建築事務所（河合浩蔵）

・国登録有形文化財