舞台の「プロンプター」、本の「校閲者」…女優・南沢奈央をたぎらせる“名もなきプロフェッショナル”たち
情熱のウラカタ
舞台には、プロンプターという役割の人がいる。ネットで調べてみると、「演劇で、舞台の陰にいて、俳優がせりふをまちがえたり、つかえたりしたときに小声で教える人」と意味を説明されているが、実際はそれ以上のことを求められている気がする。本番に限ったことではないからだ。 いよいよ来週12日に初日を迎える舞台『メディア/イアソン』の稽古場には、2人のプロンプターの方が常時いてくださった。今回はキャスト5人だけでギリシャ劇を表現するということで、それぞれ膨大な台詞がある。稽古の序盤は特に、台詞に詰まることがある。そんなときに、その様子を瞬時に汲み取ったプロンプターが、台詞が出てくるように、単語や文節で続きの台詞の取っ掛かりを教えてくれるのだ。そのことを、“プロンプを入れる”と言う。 稽古の大詰めになってくると、毎日、最初から最後まで続ける、通し稽古というものをする。その時点では台詞が出てこないということはほとんどなくなっているから、途中でプロンプを入れてもらうことはない。だが他に重要な仕事がある。通し稽古中に、台本と台詞を常に照らし合わせながら、間違えていないか確認するのだ。もしあればメモをし、終わったあとに、その部分をピックアップして、丁寧にリストに清書して渡してくださるのである。 間違えた箇所だけではなく、“どのように間違えたか”というのに気づかせてもらえるのが、ほんとうにありがたい。たとえば、「あなたのところへ」という台詞を「あなたのところに」と言ってしまっていたり、「自分は」を「わたしは」と言っていたり、語順が入れ替わっていたり。意味は同じだから自分では見落としやすい。でも、ちょっとしたことで印象が変わってしまう。台本の表現にはすべて意図があると思っているから、一字一句間違えずに言いたいのである。 このように、全体を見る演出家だけではなく、陰には、台詞を見るプロンプターがいて、舞台装置や小道具を見る舞台監督や演出部、他にも音楽監督、音響、照明、振付、衣装、ヘアメイク、制作、プロデューサー……と、それぞれ特化した見方をしている人たちが大勢関わっているのだ。舞台は、ドラマや映画のようにエンドロールもないし、パンフレットを買わない限りはスタッフさんの名前を知ることはない。 だけど、だからこそ、声を大にして言いたい。一つの作品に、さまざまなプロフェッショナルの人たちの鋭い目があるからこそ、質の高いものが作れるのだ。表に出る身として、感謝の意をもって、そして責任をもって舞台に立ちたいと思う、今日この頃なのである。