小山卓治が語る新作、ジャーナリズム的視点含む楽曲も収録したベストアルバム
家族の歌は僕の今までのアルバムの中では必ずと言って入っている
煙突のある街 / 小山卓治 田家:あ、あの曲って思われた方がいらっしゃるでしょう。1992年に真島昌利さん、2008年にBank Band、桜井和寿さんと小林武史さんが始めたap bankの箱バン、Bank Band がアルバムでカバーしておりました。 小山:この曲は当時最初の1stアルバムとは全く違うカラーのアルバムを作りたいなと思っていろいろ模索しながら曲を書いているときに、真島くんがまだTHE BLUE HEARTSを作る前のバンド、国立あたりで、マージー・ビートみたいなバンドをやっていたんですね。そこでこの曲を歌っているのを聴いて、ちょっとカバーしたいなと思って、このアルバムのカラーにも合っているなと思ってやらせてもらうことにしました。 田家:これずっと小山さんの曲だと思い込んでいたので。 小山:バックで歌っているのはマーシーなんですよね。 田家:他にご自分のアルバムで他の人が詞曲を書いたもので歌っているものってそんなにないですよね? 小山:そんなにはないですけど、『夢の島』のアルバム、1989年のときに「大統領様」いう。 田家:ボリス・ヴィアンですもんね。 小山:あの曲をカバーしたことはありますね。 田家:工場のある街の人物模様というのが当時小山さんも書きたいテーマではあった? 小山:そうですね。「ひまわり」を書いたときにそういう風景がまさに浮かんでいたので。 田家:「ひまわり」の中には家族、ご主人を亡くされたお母さんとお兄さんと姉と僕という家族でしょう。そういう家族みたいなものってその頃からテーマであったんですかね。 小山:そうですね。1stアルバムのときには照れくささもあって、そういうことは歌にしなかったんですけど2ndくらいからはそういう歌も作りたいなと思い始めて。家族の歌は僕の今までのアルバムの中では必ずと言って入っていると思います。 田家:今回の『Well2』にはそういう代表曲が並んでいて、あ、こういうことを歌っていたんだなということがよく分かる選曲にはなっていますが。『ひまわり』の中にはライブ定番の「下から2番目の男」が入ったりしている。「土曜の夜の小さな反乱」という曲があって、これも仕事がテーマでしょう? 小山:そうですね。仕事をする冴えないサラリーマンみたいな男が主人公ですね。 田家:仕事と家族というテーマは意識がずっとあった? 小山:そこまで意識しては書いてないんですけど、僕はアルバイトしたことはありますけど本業に就いたことはないので本当の会社員の気持ちは分からないんです。でも、きっとこんな気持ちなんだろうなという感じで作っちゃいました。 田家:そういう中で生まれた名曲をご紹介しようと思います。1985年に出た3枚目のアルバム『Passing』から「Passing Bell-帰郷-」。 田家:この曲を今こうして自分の番組で紹介できることがうれしいと思いながら。これを書いたときはどんなことを思いながら? 小山:1つの出来事があって、そこから歌い始めたんですけど、自分一人の視点だけで語りきれないものを語るにはどうすればいいんだろうと考えたときに、たくさんの視点で語ればいいんだと気がついて。所謂映画で言う群集劇みたいな、そういう書き方で書いてみようと思って、書いているうちにどんどん長くなっていっちゃったという曲ですね。 田家:手応えがあったんでしょうね。 小山:そうですね。書きたい曲が生まれたって気がしました。 田家:1986年の4枚目のアルバム『The Fool』の中にも「The Fool On The Build’」という曲もあって、それもやっぱりそういう長めのストーリーソングでしたよね。 小山:これは一人の少年が主人公なんですけども、孤独に苛まされた少年が徐々に追い詰められるような中でビルの屋上からジャンプするという。当時なんていう歌を作るんだって怒られましたけど、僕の中では少年が飛び降りたことじゃなくて、少年がジャンプした歌っていうふうにしたかったんですね。だから、映画で言ったらジャンプした瞬間のストップモーションで終わりたかったという気持ちです。 田家:今話に出ているアルバム『ひまわり』、『Passing』、『The Fool』はストーリーソングの三部作の80年代の傑作だなとあらためて思ったんですよ。そういうストーリーソングという意識は当時からあったんですもんね。 小山:そうですね。1stアルバムのときにはそこまで意識して主人公を置いたりということを考えなかったんですけど、やっぱりロックンローラーみたいなところで始まっちゃって。曲を作っていくうちにどんどん自分の中に生まれた主人公、自分ともちろん同期するんですけどその主人公が独り歩きを始める感覚がすごくあって。その主人公が自分とは違うキャラクターになったり、少女になったりしていく過程で物語づくりという曲作りの方向が見えてきたところがありました。 田家:あまりそういう意識を持っているシンガー・ソングライターの人は多くなかったんじゃないですかね。 小山:当初はロックンロールが流行ってましたからね。 田家:そういう時代を経て生まれた曲。今回あえて取り上げたいという曲がありまして、先週の話の中でソニーのディレクター、これは須藤晃さんなんですけどもうちではやっぱりこれは出せないと言った曲がありました。35周年ベスト・アルバム『Well ~Songs of 35 years~』の中にはその曲が入っていたんですね。これはよく入りましたね。 小山:いやー、僕も驚きました(笑)。 田家:「YELLOW W.A.S.P.」という曲です。W.A.S.P.というのはホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント。アメリカのエリート社会を象徴する言葉なんですね。歌の内容は中国残留孤児二世の物語です。