小山卓治が語る新作、ジャーナリズム的視点含む楽曲も収録したベストアルバム
残留孤児二世の彼がこの歌を自分のテーマソングのように思ってくれていた
YELLOW W.A.S.P. / 小山卓治 田家:先週も話に出ましたけどもこの曲のことをあらためてお話ししていただきましょう。 小山:事件が起きたことを新聞の小さな記事で見かけて、数日後に事件を起こしたのが残留孤児二世の少年だということを知らされて。それからずっとその記事を追い続けて1年近く経ってその少年が無罪になった記事を見て、なんか自分に投影しちゃったんでしょうね。この歌を作った後に思ったんですけど、この歌に足りないことがあって、この歌を事件を起こした本人の了承もなく作ってしまったこと。あと、殺された側の少年の視点が抜けているなというのはずっと気になっていたんですね。実はすごくうれしいことがあって、先日残留孤児二世について取材をしているあるフリーライターさんがこの曲を知って、いろいろ取材を受けたんですけど、そのライターさんがこの事件の当事者の男性を連れてきてくれたんですよ。ライブ会場へ奥さまと2人で観に来てくれて、ライブが終わって初めて会って話をすることができたんですね。彼はすごくこの歌を自分のテーマソングのように思ってくれていたらしくて、それがとてもうれしかったんです。 田家:なるほど。1990年に1回カセットで出て。 小山:そうですね。その後、1995年のアルバム『ROCKS!』のときに一応レコーディングはしたんですけども、この曲はメーカーからも出せないということを言われて断念しました。 田家:2017年に35周年ベスト・アルバム『Well』に入ったという曲ですね。2003年に発売になった曲をお聴きいただこうと思うのですが、2003年のアルバム『種』から「種の歌」。 小山:この曲は2001年のアメリカの同時多発テロがきっかけで作った歌なんですけども、やっぱりものすごくテレビから流れる画面に衝撃を受けて、歌にしなきゃいけないとは思ったんですけどあまりにもテーマがでかすぎて、どうしていいか分からなかったのでまずニューヨークに行こうというので半年後ぐらいに行ってみたんですね。グランド・ゼロという爆心地と言われる場所に立って、一人の日本人シンガーとしてこれをどうやって歌えばいいんだろうとすごく悩んだんですけども、ただの反戦の歌というのではなくてそれを1つの家族の物語みたいにして歌えればいいなと思って、それでこの形になりました。 種の歌 / 小山卓治 田家:1992年に『花を育てたことがあるかい』というアルバムが出て、さっきお聴きいただいた80年代当時90年代当時の歌の作り方とちょっと変わってきている? 小山:そうですね。この歌はやっぱりラブソングでもありますし、声高に叫ぶことよりも面と向かって問いかけた方が気持ちって伝わるんだろうなということがだんだん分かってきた年齢になったからかもしれないですね。昔は人の胸ぐらを掴んでこの野郎!という歌の作り方をしてましたけども、それよりももっと伝える方法があるなってことはずっと試行錯誤しながら作ってました。 田家:『YELLOW W.A.S.P.』はそういう意味のある行き着いた形でもあったんでしょうね。ニューヨークのマンハッタンのテロの後に行かれたときはどんなふうに思われたんですか? 小山:まさに戦場でしたね。警官とか軍隊がマシンガンみたいなものを持って並んでいたし、地元のポリスもいっぱいいて。やっぱり観光客が物見遊山で集まってくるんですね、世界各国から。行列に並んで徐々にグランド・ゼロの近くまで行くんですけど、みんなだんだん口数が減っていって、目の前に柵があって、そこに大きな穴があって。その前に立ったときには世界中の人たちが沈黙していました。 田家:音楽をやらなかったら例えばジャーナリストになっていただろうとか、そういう仮定を考えることはありますか? 小山:いや、それは考えたことないですね。音楽って伝えられることってたくさんあるでしょうから、僕はそっちの道を選んじゃったので、今もそのまま歌い続けていることになりますね。 田家:選んじゃったという感じですね。 小山:目の前にそれがあって、それを無理やり掴んじゃったのかもしれないですね。ギターがあったので、ギターを弾くことで何か伝えることができるだろうし、女の子にもモテるだろうしって若い頃は思ってましたね。 田家:さっきの「FILM GIRL」もそういう意味では身の回りに起きた出来事でもあったわけでしょう。そういうことがずっとテーマになっていて、見ていくものの視野が多少広くなったりしているというので今に至っているんでしょうかね。 小山:そう思います。 田家:そういう中で今回のアルバム『DAHLIA』。花ですもんね。『花を育てたことがあるかい』、『種』、『DAHLIA』というふうに繋がっていることはありそうですか? 小山:偶然と言えば偶然なんですけど、今回は「DAHLIA」という曲ができたこともきっかけだったんですけど、道端の花を愛でるような気持ちをみんなが持っていればいいのになってすごいささやかな規模ではあるんですけど。ロックンロールという言葉からはどんどん離れてきているんですけどもね。 田家:ロックンロールという言葉に対してものすごい情熱を持っていたときと今は何が違ってきているんですかね。 小山:当時から思っていたのは日本人のやるロックンロールというのは、やっぱりただのスタイルだったんだなという気がするんですね。本当に気持ちから腰を揺さぶられるものを作ろうというよりもファッションとしてのロックンロールだったのかなという気がしますね。ロックンロールと言うと、ちょっと気恥ずかしい気がして。ロックと言うんだったら分かるんですけども、ロックンロールというのはちょっと今は気恥ずかしいですね。 田家:でもこの「DAHLIA」は今の俺のロックのアルバムだって感じはありますか? 小山:うん、それは自覚しています。 田家:全部で何曲入りそうなんですか? 小山:11曲入れるつもりです。 田家:次の曲が表題曲ということになりますね。10月中に発売になる14枚目のアルバム『DAHLIA』のタイトル曲「DAHLIA」。