「前受け不合格→一念発起で追い上げ」は都市伝説!?1万人追跡調査で判明したお試し受験の真実
● 「不合格で奮起する」 真偽はいかに? では、「前受け受験で不合格になったら、奮起する」の真偽はいかがでしょうか。 これも多数の子どもに対応してきた実例を紹介します。しっかり話を聞いてみると、ほとんどの子どもは涙を流します。悔し涙かもしれませんし、不安の涙、親への申し訳なさの涙などさまざまなケースがあります。いずれも、前受けであっても「不合格」の経験によって子どもたちが大きく心を動かされるということが分かります。 実際に子どもたちから聞いた感想も紹介します。 Aさん「親の前で、落ち込んだふりなんかできないから、真面目に振る舞うしかないんです。本当は不安でしょうがありません」 Bくん「塾の中では、合格・不合格は話題にするなと言われているけど、何となくわかるもんだよ。あいつが受かったのに、俺が落ちるなんて予想してなくて頭は真っ白」 Cさん「本命校より偏差値が下の学校に不合格だったんだから、○○中は受けても無駄かな」 特に、Aさんのケースが「不合格で奮起した」と、親の目には映ってしまっているが実際は違うのではないか?と考えたい実例です。 Cさんが悩んだように、前受け受験の不合格により、本命校の受験を回避するケースも見られます。冷静に学力を見極めて回避したほうが良いケースももちろんありますが、それまで模試も過去問の点数も順調に伸ばしてきていたのに、1回の前受け受験の結果を見て、果たして方針を変える必要があるのか疑問です。 受験する前までは「結果なんて気にせず、模試代わりになるね」と気軽に考えていたのが、実際に不合格を前にして親も大きく気持ちを揺らしてしまうというのが、受験の真実です。
● 「合格実績を増やしたい」 という塾の事情も…… また、そもそも「不合格を経験させることでしか、本人を本気にさせることができなかった」塾の先生が、「不合格を払拭して、落ち込ませずに本人を奮起させることができるのだろうか」ということも見極める必要があります。塾や家庭教師の中に、親も本人も絶大な信頼を寄せる先生がいる場合は、この限りではありません。 さらに、もう一つ辛口の分析もしておきます。「こういう要素もあるかも?」と考えたり、「何のために前受け受験をするのか?」をもう一度考えたりするきっかけになればと思います。 少数派であってほしいと願うばかりですが、進学塾として合格実績を増やしたいという目的があり、強く前受け受験を進めるケースがあることは知っておいたほうが良いでしょう。特に、成績が優秀な子どもは、「たくさんの学校を受けてほしい」と勧められることがあります。 実際に、関西の塾が地元の難関校に合格した生徒に対して受験料と交通費を負担して、関東の難関校の受験をさせているという例もあります。 私は、「前受け受験」にはメリットとデメリットの両方があることを塾が説明し、受けたほうが良い生徒には受験を勧め、受けないほうが良い生徒には受験を勧めない。そして中学受験の主体は子どもであり、家庭であるはずなので、最終判断は家庭にお任せするのが誠実な姿勢ではないかと思います。 繰り返しになりますが、今回の内容は「前受け受験はしない方が良い」というメッセージではなく、「しっかりと目的を決めて受けましょう」「何となく周りに流されて受験するのはやめませんか」というメッセージです。 最後になりますが、これをお読みいただいた方の前受け受験という「旅の途中」が意義深いものになるように、お祈り申し上げます。
渋田隆之