実家を処分するには? 売却の流れや後悔しない手放し方をプロが解説
親の死後に実家を処分するときに、親族間で感情のもつれや争いに発展してしまうことは避けたいものです。この記事では、実家の処分に関して事前にしておきたい準備や処分の具体的な流れ、後悔しない手放し方を相続・不動産の問題解決型コンサルタントが解説します。
1.実家を処分する大まかな流れ
実家を処分するときは、基本的に以下の8ステップで行います。 順に詳しくご紹介します。
2. 実家を処分する手順①売却の準備をする
2-1. 遺言書の有無を確認する 実家の処分手続きを進めていくうえで、最初にすることは亡くなった人(被相続人)の「遺言書」があるかどうかの確認です。 実家の処分において、誰が実家の相続人なのかは重要で、これが明確でないと後々大きなトラブルにつながります。もし遺言書があれば、記載されている内容に従います。 ただし、公正証書遺言のほか、法務局に2020年7月以降に保管されている自筆証書遺言以外の場合は勝手に開封してはならず、家庭裁判所の検認(相続人立ち会いのもと、裁判官が開封する)手続きが必要です。この手続きは時間もかかりますので、早めに行いましょう。 一方、遺言がない場合は相続人同士で遺産分割協議を開き、実家の相続人を誰にするのかを決定します。遺産分割協議は、遺言書があっても、相続人全員が協議することに合意した場合、開くことが可能です。 2-2. 実家の名義を変更する 不動産を相続した場合に、すべての方に共通する相続手続きが名義変更(相続登記)です。名義を変更しないと、相続した実家を処分することができません。この手続きは、対象不動産を管轄する法務局で行います。 なお、2024年4月からは、相続によって不動産を取得した相続人は、「その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない」と名義変更が義務化されました。 2-3. 住宅ローン残高を確認する 亡くなった人の借金や住宅ローンなどが残っていた場合、相続が起きたと同時に、原則として相続人がマイナスの財産も引き継ぐことになります。 ただし、住宅ローンの場合は、住宅ローン契約時に団体信用生命保険の契約が必須なケースがほとんどです。この契約を結んでいる場合、住宅ローンの返済中に加入者が死亡したり一定の障害状態となったりしたときに、保険金によって残りの住宅ローンが弁済されます。住宅ローンが残っていたら、速やかに借入先金融機関に確認しておきましょう。 2-4. 隣家との境界・確定測量図を確認する 土地売却時に測量を絶対しなくてはいけないという決まりはありませんが、敷地面積は不動産の価格を決めるにあたり、とても重要です。 測量図面があった場合でも、親の代に作成された時代の測量精度と現在の最新測量機器による正確な面積とでは差異が生じるケースも少なくないため、土地売買は実測面積による「実測売買」が望ましいといえます。 実測売買に必要な確定測量図の作成では、隣地所有者との境界立ち会いを行い、同意を得た上で境界点を確定し、あらためて境界標を設置します(隣地が公有地、道路などであれば官民査定も行うため、国や行政との打ち合わせが必要になり、時間を要する場合があります)。 2-5. 購入額がわかる売買契約書などを探す 売却準備においては、土地や建物の購入額がわかる書類(土地購入契約書や請負契約書)を探しておきましょう。 これらの書類があるか無いかで、売却後に得た利益にかかる譲渡所得税(所得税・住民税)の額に、雲泥の差が出る可能性が高いためです。 譲渡所得は、譲渡収入金額(土地・建物の売却代金、固定資産税等清算金)から取得費と譲渡費用をあわせた金額を引いて計算されます。この譲渡所得から特別控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特例など)を引いた金額に、所得税や住民税の税率をかけて算出されるのが、実家の売主が支払うべき所得税・住民税です。 【課税所得税の計算プロセス】 ①譲渡所得 = 譲渡収入金額 -(取得費 + 譲渡費用) ②課税譲渡所得金額 = 譲渡所得 - 特別控除 ③課税所得税(所得税・住民税)= 課税譲渡所得金額 × 税率 課税所得税計算において特に重要なのが取得費で、この金額が大きければ課税金額をおさえることができます。 取得費は実額法による「土地建物の購入代金と取得に要した諸経費を合計した金額から、建物の減価償却費を差し引いた金額」か、概算法による「譲渡収入の合計金額 × 5%」のどちらか高い金額を使用します。 ただし、実額法を用いるためには、土地や建物の購入金額がわかる書類が必要です。 もし、これらの書類がなく、金額がわからない場合は概算法で計算することになります。 したがって、基本的には譲渡所得に大きな差が生じます。 例えば「Ⅰ:3,000万円で購入した実家を相続し、それを5,000万円で売却する場合」と「Ⅱ:購入金額が明確にわからないまま、5,000万円で売却する場合」の譲渡所得は、以下のようになります(※譲渡費用は便宜上、0円とします)。 Ⅰ:譲渡所得 = 5,000万 - (3,000万 + 0)= 2,000万円 Ⅱ:譲渡所得 = 5,000万 - (5,000万 × 5% + 0)= 4,750万円 そのため、売却の手続きをする前に、購入金額がわかる書類を、名義変更に必要な登記済権利証などと一緒に探しておきましょう。 なお、課税譲渡所得金額にかかる税率は、実家の所有期間(被相続人が実家を購入してから、相続人が売却するまでの期間)に応じて変わります。いずれの税率も、復興所得税として所得税の2.1%相当が上乗せされています。 【短期譲渡所得】 所有期間:5年以下 税率:39.63%(所得税30.63%・住民税9%) 【長期譲渡所得】 所有期間:5年超 税率:20.315%(所得税15.315%・住民税5%) 所有期間が10年を超える場合、相続後に売主が住んでいるなどの要件を満たせば、軽減税率の特例の適用を受けられます。 この場合、課税譲渡所得の6,000万円以下の部分の税率が14.21%(所得税10.21%・住民税4%)、6,000万円超の部分の税率が20.315%(所得税15.315%・住民税5%)となります。 2-6. 遺品整理や片付けを行う 相続した実家には親の荷物がいっぱいで、「そのうちやろう」と片付けを後回しにされている人は多いですが、実家を売却するときは何もない状態にしておかなければいけません。 遺品の整理・不用品の処分は、「遺品整理業者や清掃業者に頼むとお金がかかるから」と相続人自身でやり始めるものの、思いのほか労力や時間がかかるため、結局は業者に依頼するケースをよく見かけます。まずは、専門業者に現状の見積りをとってから、自分でできること、できないことを把握することが大事です。 なお、実家を片付けている最中に、通帳や株券、保険証券、登記済権利証(または登記識別情報)、建築確認済書など相続財産に関する重要な書類のほか、価値のある骨董品、貴金属などが見つかることがあります。これらが見つかったら、再度紛失しないように別に保管しておきましょう。 老朽化などから実家を解体する予定がある場合は、解体業者が本体解体工事と合わせて残された不要な木製の家具類、鉄類を処分してくれることもあります。解体業者に問い合わせるときに、どこまで処分が可能か確認してみるとよいでしょう。 2-7. 必要な箇所を掃除する 内覧(査定)時によい印象を残すために、事前に掃除を行っておくことをおすすめします。特に、水回り(キッチン、風呂、洗面所、トイレ)は可能な範囲で掃除をしておきましょう。 そのほか、門扉、玄関まわり、庭、バルコニーなどもできる限りきれいにしておくと、さらに第一印象がよくなります。 2-8. 仏壇・神棚を処分する 実家にある仏壇や神棚は、適切な作法に則って処分します。 仏壇を処分する場合は、「閉眼法要」や「魂抜き」と呼ばれる法要を行うのが一般的です。神棚を処分する場合は、神棚に祀っている「お札」を神社に返納します。 その後、菩提寺または近所のお寺でお焚き上げをしてもらう、購入した仏壇店で引き取ってもらう、自治体の粗大ごみに出すなどの方法で処分します。サイズなどによって処分費用が変わってきますので、事前に確認しておきましょう。 2-9. 老朽化が進んでいたら解体する 相続した実家の建物が老朽化しているときは、解体して「更地」にした方が、早期に購入希望者を見つけられる可能性が高いでしょう。更地にしておくと、解体費用やその工期がかからず、土地のイメージがしやすいというメリットから、注文住宅を検討している人に好まれる傾向にあります。 解体費用は、本木造・坪3.5万前後、鉄骨造・坪4.5万前後、RC造・坪5~8万(いずれも本体工事価格)で、木造2階建て住宅の延床30坪で100万円前後が目安です。このほか、養生シートなど解体に用いる備品代、土間コンクリート、ブロックフェンス、地中埋設物(瓦礫や浄化槽など)を撤去する場合はその費用が加算されます。 また、更地にするタイミングにも注意が必要です。固定資産税は、1月1日時点に土地が更地の場合、更地として課税が確定します。建物がある場合と比べて、200㎡以下の土地で約6倍となるため、解体の時期についてはよく検討してください。