【チャンピオンズC】レモンポップ「この俺が負けるわけがない」有終の美飾る あまりに美しく 爽やかすぎるラストラン
第25回チャンピオンズC 回顧
レモンポップは最後まで、チャンピオンベルトを巻いたままだった。 ダート馬たちのレベルが上がり、レースの度に新たな王が誕生する昨今のダート界。 【ガチ予想】ダート最高峰の競走「チャンピオンズC」をガチ予想!キャプテン渡辺の自腹で目指せ100万円! 今年も国内で行われたダートGⅠはここまで12戦あったが、複数勝った馬はレモンポップだけ。あとはレースの度に勝ち馬が替わっていた。 チャンピオンがチャンピオンのまま、現役を去るのが難しいことは歴代のダート王たちを見れば明らか。 なかでもJRAのダートGⅠ、チャンピオンズCを引退レースとして勝利したダート王は未だかつていない。そんな大事な一戦をレモンポップは現役最後の一戦に選んだ。 今年の中京競馬場の空はまるでレモンポップの勝負服のような澄み切った青空。快晴の中で行われたパドックに現れたレモンポップの栗毛の馬体を光り輝いていた。
昨年と比べて2キロ増えた516キロの馬体はまるではちきれんばかりであの爆発的なスピードを生む後ろ脚やお尻の筋肉はどの馬よりも盛り上がり、現役ラストの一戦に賭ける並々ならぬ思いがその歩様からもひしひしと伝わってきた。 そんなレモンポップの表情を見ると、今まで以上に落ち着いているように思えた。 もともとパドックはいつも落ち着いて周回する馬ではあるが、今日の落ち着きはいつもとは少し違う気配を感じさせるほど。 初めての距離、死に枠とされていた大外枠を引いたことで不安視する声もあった昨年とは違い、今年はこれといった不安要素がない状態での一戦。 だからだろうか、2人引きで歩く姿は今まで以上に余裕を持って周回しているように映った。 「この俺が、負けるわけがない」と言わんばかりに――。そんなレモンポップの強さは今年も健在だった。 ゲートが開いた直後、好スタートを決めたレモンポップはいつものようにスッと先頭に立ちに行った。 隣から今年のフェブラリーS勝ち馬のペプチドナイルがグイグイ押されながら迫ってきても、その外からミトノオーが被せてきてもレモンポップはお構いなし。 まるで「ついて来られるなら、いいよ!」と言わんばかりに2コーナーを回るころには迫ってきたミトノオーに1馬身ほどの差を付けて涼しい顔をして先頭を走っていた。 楽々と逃げているレモンポップに惑わされてしまうが、前半3ハロンの時計は昨年よりも36秒0。 昨年よりも0.4秒速く、過去5年と比べても最速。平均ペースとはいえレモンポップを追いかけている先行勢には厳しい流れとなったことだろう。 そんな流れをどこか涼しい顔で駆けていくレモンポップの走りはどこか軽やか。歴代のダート王に共通するような荒々しさや猛々しい感じとは無縁で時に爽やかささえ感じさせるほど。 そんなレモンポップの闘志に火が点いたのは、4コーナーを回った時だった。 4コーナーからの立ち上がり、鞍上の坂井瑠星の両腕が激しく動く。ゴーサインが出たところでレモンポップのスピードはフルスロットルに入っていき、後続との差を広げ始める。 その姿は昨年のチャンピオンズCとほぼ同じ。「さあ、かかってこい!」とライバルたちに宣言するかのように坂井が右鞭を入れたのは残り300mを過ぎたころ。 その鞭に応えるように一歩、また一歩とレモンポップは加速していく。 そんなレモンポップを捕まえようと最初に仕掛けたのはペプチドナイルだった。 フェブラリーSを11番人気で制した後、勝ち切れないまでも堅実に走り、南部杯ではレモンポップに迫る2着。 この1年でレモンポップに最も肉厚した男は今度こそ捕らえるという強い決意を持って、チャンピオン・レモンポップを捕らえに行った。 だが、それ以上の勢いでレモンポップに迫る馬がいた。昨年の2着馬……否、今年のJBCクラシックを制したウィルソンテソーロと川田将雅だ。 1年前のこのレース、12番人気という立場ながら原優介の鞭に導かれるように伸び、レモンポップに1馬身1/4迫っての2着という大激走を見せた男はGⅠタイトルを目指し奮闘するも、あと一歩届かないレースばかり。 7度目のGⅠ挑戦となったJBCクラシックで勝利して念願のタイトルを掴んだ男はその勢いのまま、再びレモンポップに迫る。その気迫あふれる猛追は「昨年とは違う!」と吼えているかのようだった。 残り100m。脚色がいっぱいになったペプチドナイルをウィルソンテソーロが捕らえ、その前にいたレモンポップに迫った。 完全に抜け出していたはずのレモンポップだったが、ウィルソンテソーロの鬼気迫る追い込みにもうひと踏ん張り。坂井の右鞭に応え、またストライドを広げ、首を伸ばしていく。 内に粘るレモンポップ、外から迫るウィルソンテソーロ。ゴール板を迎える直前に2頭の馬体は完全に並び、首の上げ下げというところでゴールとなった。 スタンドからはほぼ同時にゴールしたかのように見えたが……坂井は勝利を確信していたのか、レモンポップの首をポンと叩いて、チャンピオンをねぎらった。 そんなチャンピオンへの想いを坂井はレース後のインタビューでこう語った。 「本当にレモンポップに感謝したい。僕はいつも通り乗っていただけ。最後まで頑張ってくれた馬の力だと思う」 目に光るものが見えた坂井の表情からはレモンポップへの感謝の言葉が止まらなかった。その様子はレース直後のウイニングランでもみられた。 芝コースに出て、坂井はレモンポップとともにファンが待つスタンドへ戻ってくると、そのまま駆け抜けることなく、スタンドの前で停止してファンの前でガッツポーズを見せた後、すぐにレモンポップを指さした。 その姿はまるで「僕にではなく、レモンポップに声援を送ってくれ!」とファンにアピールするかのように。素晴らしい走りを見せた最高の相棒がファンから祝福されることを誰よりも喜んでいたように思う。 インタビューの最後の質問で「レモンポップはどんな存在だったか?」と聞かれた際、坂井は迷うことなくこう答えた。 「この2年間、僕の中心にいた馬。引退するまで、引退してからも忘れることのない1頭になった」 若手のひとりだった坂井瑠星はレモンポップと出会ったことでGⅠジョッキーとなり、いまや日本競馬界をリードする期待の新鋭騎手となった。 4年後、レモンポップの産駒が競馬場で走る時、その背中には今よりももっと成長した坂井瑠星がいることだろう。そんな日が来るのが本当に待ち遠しい。 ■文/福嶌弘
テレ東スポーツ