震災の記憶と再生を映し出す映画「彼方の家族」、東日本大震災から14年後に公開決定
震災の記憶と再生をテーマにした映画「彼方の家族」が、3月22日より東京・K's cinemaほかで順次公開される。 【動画】映画「彼方の家族」予告編はこちら 「彼方の家族」の主人公は、幼い頃に東日本大震災で父親を亡くした高校生・奏多。父の存在を感じられず、自分に何ができるのかわからないまま過ごしている彼が、転校先で担任の息子・陸と出会うことから物語が展開していく。彼らは次第に距離が近付いていき、父への思いを打ち明け合うが、ある日奏多が学校に行くと、そこに陸の姿はなかった。 東北芸術工科大学に研究生として在籍していた坂内映介が自身の震災体験をもとに脚本を執筆し、同大学の卒業生である川崎たろうと共同で監督を務めた。キャストには奏多役の相澤幸優をはじめとして、山内大翔、渡辺友貴、渡邊祐太、深谷和倫、早瀬瑠衣、下永正虎、木村知貴が名を連ねる。 YouTubeでは予告編が公開中。なお同作をひと足早く鑑賞した映画監督の林海象は「美しい映画だと思う」、諏訪敦彦は「これほど痛切な喪失の肌触りを映画で感じることは稀である」とつづった。川崎と坂内から届いたコメントは下記の通り。 「彼方の家族」は4月5日から神奈川・横浜シネマリン、11日から山形・MOVIE ON(ムービーオン)やまがた、鶴岡まちなかキネマ(まちキネ)でも上映される。配給はムービー・アクト・プロジェクトが担った。 ■ 林海象(映画監督)コメント この映画は「不在と存在」についての映画だ。人は生きていくなかで多くの出会いと別れがある。別れにはいろんな理由があり、天災などの抗えない運命もある。別れた人たちは「不在」という実在の中で「存在」していく。亡くなり別れた人たちはそれぞれの心の中で「存在」し続ける。この映画のラストはそれを見事に表現している。東北の寒風の風景のなかでこそ、その「不在の存在」は立ち上がる。美しい映画だと思う。 ■ 諏訪敦彦(映画監督)コメント 教室でリクが父に殴られたことを告白する時、彼は奇妙な所作でカナタとの距離を不規則に変化させる。表情はいつも笑っているのに、リクの体は何か得体の知れないものに出会って戸惑っているかのようだ。それは何だろうか? この時カナタはリクの秘密を知っただけではなく、リクという「存在」を経験している。リクが直面する得体の知れないもの、それは「私が存在している」という事態である。しかし、ある日プツリと出会ったはずの存在が消える。父や友が存在した世界と、いなくなってしまった世界には実は大きな違いはないのかも知れない。雪の積もった広場、誰もいない路地に降り注ぐ弱い陽の光、カメラは何も変わらない世界を捉えるが、その変わらなさに私は味わったことのない痛みを感じる。カナタの視点から決して離れないカメラは、常に地上に留まり、神のように世界を見渡すことはできないから、大切な人に何が起きたのかカナタには見えない。彼らは理由もなくただ世界から消えてしまう。「彼方の家族」の奇跡的な出来事とは、そんな死者がふと蘇ってしまうことではなく、「いない」というカメラには映らないはずの「不在」が何気ない風景の中にハッキリ写っているということである。これほど痛切な喪失の肌触りを映画で感じることは稀である。いや映画だからこそそれが可能だったのだ。 ■ 川崎たろう コメント 苦しい気持ちなんて、葬ろうとするのが正解なのか。日常を根本的に変えられてしまった脚本家の坂内君はなぜこれを今撮ろうと思ったのか。震災を体験していない東北出身の自分は何を語れるのか。このような混沌とした想いがこの映画を生みました。奏多、陸と彼らの家族がこれからも居続けられる場所があることを願って。 ■ 坂内映介 コメント 震災や事故、様々なきっかけで人との別れは突然訪れてしまいます。その時に僕たちが出来ることは彼らとの思い出を覚えている事だと思います。一緒にご飯を食べた事、遊んだこと、怒られたことどんな些細な思い出も僕たちが覚えていれば彼らは心の中で生きていると僕は思います。覚えている事、誰かを想う事は人と人を繋げてくれる尊い行為です。この映画を観た人が誰かを思い出すきっかけになれたら嬉しいです。 (c)坂内映介 川崎たろう