北朝鮮・張成沢氏失脚の真相 早稲田大学・重村教授に聞く
北朝鮮が張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長の解任を発表した。北朝鮮でいま何がおこっているのか。韓国・北朝鮮問題が専門の早稲田大学国際教養学部・重村智計教授に話を聞いた。(聞き手:河野嘉誠)
―――張成沢氏の失脚をどうみるか? 今回の事件は、軍が張成沢一派に対し起こしたミニ・クーデタだ。金正恩グループの一角が崩れ、北朝鮮の内政が不安定化する。張成沢は以前から「スパイ容疑」を疑われていた。軍は今回、張成沢が韓国側に情報を漏らしている証拠をつかんだ。また、張成沢は金正恩体制成立後、軍の利権を奪いすぎた。これが軍の反発を招き、「不正腐敗」の罪状も加わった。 ―――「不正腐敗」とは? 北朝鮮はいま経済制裁を受けている。財政的にはかなり厳しい。北朝鮮の利権は基本的にすべて軍が握る。これでは軍にカネを全てもっていかれ、民間経済が回らない。金正恩政権は軍が握っていた利権を切り離し、党や政府に分配するとした。しかし、実際には張成沢が利権を着服していた。 ―――失脚した張成沢氏とは? 張成沢は金日成の一人娘・金敬姫の夫として政界に進出。2011年の後継者問題で金正恩を推薦し、金正恩体制では政権の立役者として権勢を振るった。妻・金敬姫とは結婚数年後から現在まで別居状態。「平壌の三大遊び人」と呼ばれ、評判は悪かった。張成沢はあくまで妻・金敬姫の威光で輝く存在だ。権力は盤石ではなかった。 ―――「北朝鮮のNo.2」ともいわれていた 実際にはそれほどの権力は持っていなかった。北朝鮮の権力構造で最も権力を持つのが労働党組織指導部だ。組織指導部の第一副部長は三人おり、それぞれ軍、党、政府の代表者から構成される。張成沢はこの役職を切望していたが、就任できなかった。 ―――張成沢氏は「改革解放勢力」ともいわれる 平壌には改革派も非改革派もいない。改革開放をしたら現体制が潰れるのはみんな知っている。張成沢はもともと中国のスパイともいわれていた。それが「改革開放勢力」といわれる理由だ。しかし、張成沢も内務軍という警察組織を持っていたため、疑惑が表立って追求されることはなかった。