【3・11から13年】羽生結弦が東日本大震災へ込めた思いと希望をもらった被災地のアイスショー、大女優・大地真央さんとのコラボで見せた新境地とは
進化を探り達成した豪華コラボ
表現を平面的にとらえることなく、立体的にとらえるからこそ「奥行き」を意識することができるのではないだろうか。指先の細やかな動きから、表情にいたるまで、いかに魅せることができるか。高い意識で向き合う羽生さんは言う。 「フィギュアスケートって格好いいな、男性だけど美しいなって、こんな奇麗なスケートがしたいって思ってもらえるような姿を見せ続けることが、僕の使命かなと今は思っています」 こうした姿勢でどんな機会にも、進化の可能性を探る。だからこそ、新たな何かを追い求め、常に表現の幅を広げ、進化を遂げていく。豪華コラボも、大地さんと自らがそれぞれ醸し出す「美」を単に組み合わせるのではなく、氷上から飛び出した表現を追い求めたからこそ、運命に翻弄される様も、そこに抗いもがく様も、やがて全てを受け入れて希望を見出していく世界観をも作り出していくことができるのだろう。
羽生さんは「僕はいっぱい、いっぱい(練習を)やっていて、大地さんとも何回も何回もリハーサルを重ねて、大地さんも本当に細部までこだわってくださって出来上がった演目なので、自信を持って、胸を張って皆さんにお見せできるコラボレーションになったなと思っています」と力を込め、大地さんも「(演じるときの2人の)位置的には距離がありますが、息が合って、すごくコラボ感を出すことができました」と達成感をにじませた。
次々と紡ぎ出される熱い言葉
この日の囲み取材では、被災地への思い、ショーに込めた希望や祈りの気持ち、それぞれのプログラムのストーリーや細部に及ぶ表現にまで、羽生さんの口からは次から次へと言葉があふれでてきた。身振り手振りを交えた熱い語り口だった。 このときの囲み取材は、羽生さんを中心に、前方にテレビカメラが並び、左右から記者が質問する格好で行われた。偶然にも羽生さんから見て右側からの質問が続いた。 一つひとつの質問に対するコメントには、とても意義があり、羽生さんが紡ぐ言葉に、記者たちは熱心に耳を傾けてメモを走らせていた。この日は「みんなで力を合わせて良いショーができたのではないかという実感があります」と振り返った初日公演が終わっただけで、翌日も翌々日もショーは続く。限られた時間の中で設けられた取材ゆえに、あっという間に予定時間がすぎてしまった。最後の質問に答えた羽生さんは直後、顔を反転させて向かって左側に位置した質問ができなかった記者たちに申し訳なさそうな表情を浮かべた。 「ごめんなさい、こっちまで(時間がなくて)…。(自分の話す言葉が)長くてすみません。ありがとうございます」 思いが詰まった羽生さんの言葉は、スポーツ紙のオンラインサイトなどで一言一句が届けられている。長い一日の最後を、記者たちを気遣う言葉で締めくくり、羽生さんは会場を後にした。
田中充