「鼻出しマスク」でまさかの反則負け3回 将棋の日浦八段は、それでもなぜ鼻出しにこだわったのか 「脳へのダメージ」と「排除する空気」の深刻さ
政府や専門家会議の発表資料やマスコミの報道だけではなく、国内外のさまざまな科学論文を読みあさり、専門家らの講演会にも足を運んだ末、たどり着いた結論は「マスクでは防げない」だった。 日本将棋連盟が規定を策定した時期にも疑問を持った。感染拡大が始まったのは2020年。策定時期の2年前だ。「コロナ流行を理由にするのであれば、なぜもっと早く作らなかったのか。2022年1月末には緊急事態宣言も終結し、感染の主流もデルタ株から重症度が低いオミクロン株に移っていた。欧米では対策をやめ始めたころだ」 ▽連盟との「溝」が埋まらない 日浦さんが公の場でマスク着用義務の規定に抗議したのは、策定から約4カ月後の2022年5月だ。 日本将棋連盟の運営について話し合う会合があり、棋士が直接、理事会に質問できる場だった。 「マスクに感染予防効果があると思いますか」。日浦さんが尋ねると、ある役員はこう答えた。「分かりません」
マスクに効果がないことを示す資料も持参したが、誰も目を通そうとしない。後日、同じ疑問をぶつけた別の役員はこう言い放ったという。「そういうことはね、この際、話をしてもしょうがない」 反則負けを2回経験した後、3回目の対局を迎える前日の今年2月6日。東京都内にある法律事務所を訪れた。連盟から反則負けに対する抗議を伝えるよう指示されたためだった。 3人の弁護士を前に、マスク着用義務が書かれた規定を見せて尋ねた。「鼻出しマスクが禁止だと、この文書から読み取れますか」。すると弁護士の一人は言い切った。 「読めます」 弁護士らが退出すると、事務所で待機していたという日本将棋連盟会長ら幹部2人が現れ、日浦さんに告げた。「明日は対局ですが、きちんと鼻までマスクをしてください」 「お断りします」と応じると、こう警告された。 「もし今度やったら処分することもありえますよ」 とっさに日浦さんは叫んだ。