「鼻出しマスク」でまさかの反則負け3回 将棋の日浦八段は、それでもなぜ鼻出しにこだわったのか 「脳へのダメージ」と「排除する空気」の深刻さ
かたくなにルールに従わないのは、一見すると身勝手に思えるが、これには経緯がある。「臨時規定ができた時から、私は何度も連盟の理事らに『撤回すべきだ』と訴えていた。この時点で、すでに連盟との間に軋轢が生まれていた。これはもう闘うしかないと思った」 ▽マスクで「最善手が減少」という科学的根拠 話はマスク着用を義務づける規定ができた当時にさかのぼる。 日浦さんによると、規定は現役棋士らに聞き取りやアンケートをせずに作成された。「私たち現場の意見をまったく聞かず、一方的に押しつけられた」 反発を覚えたのは、職業として生活をかけて闘う棋士のプライドからだ。 「プロの真剣勝負の場で、マスクを強要するのはありえない」 将棋は朝から晩まで、長いときには対局が12時間以上にも及ぶ激しい消耗戦だ。対局相手の特徴を調べ、体調を整えて臨む。一手ごとに局面が変化し、先を予想して最善手を導き出すために脳をフル稼働させる。
マスクをすれば酸素が欠乏し、集中力をそがれる。人によっては頭痛も生じる。 日浦さんが調べた結果、こんな根拠があった。 チェスの選手で、クイーンズランド大の研究者でもあるデビッド・スメルドン氏は2022年10月末、マスクを着用すると「最善手を指す割合」が21%低下したという研究結果を米科学アカデミー紀要に発表したのだ。 「棋士として、脳への影響にはデリケートになる。マスク着用による酸素欠乏が脳に与える悪影響は、すぐにはわからず自覚もないだろう。だからこそ怖いのです」 ▽「マスクでコロナは防げるのか」という疑念 それでも、マスクが感染を防ぐために真に有効なのであれば、たとえ最善手を指せなくなったとしても仕方がないのかもしれない。 日浦さんがマスクを疑うようになったのは、自身が2021年夏に新型コロナウイルスに感染したためだ。PCR検査で陽性となった当時、日浦さんは他人との接触を控え、いつもマスクを鼻まで覆って着用していた。そこで一つの疑問が芽生えた。「マスクでコロナは防げるのか」