「地方創生」論議で注目、増田レポート「地方が消滅する」は本当か? 木下斉
2. 自治体は直近の財政破綻を危惧すべき
自治体の破綻は、人口減少だけが要因なのでしょうか。いいえ、それより先に財政破綻の問題と向き合う必要があります。財政非常事態宣言を発し、解除できていない自治体は既に全国各地に存在しています。夕張市のような自治体破綻の事例は決して稀なケースではなく、今後は多くの自治体が直面する可能性が多くあります。先日も千葉県富津市が、2018年には財政破綻に陥り、夕張市同様の財政再生団体に転落する見通しであることを明らかにして衝撃が走りました。2050年などを待たずしても、自治体自体が財政問題が原因で消滅する可能性があるのです。 過去の失政によって生み出された膨大な自治体債務をどうするか、福祉を含めた今後の支出増に対し、減少し続ける、限りある税収でどのように対応していくのか。破綻しない社会を実現する自治体経営の課題と向き合うことが先です。地方自治体の財政問題を人口減少問題に置き換えてしまうことは、本来、多くの自治体では直近の懸念事項である財政問題への対応を遅らせる懸念さえあります。なんでも人口減少が悪い、人口減少が改善されれば全て解決する、というのは幻想です。
3. 国民を移動させる前に、自治体経営の見直しを
「地方消滅」論での処方箋では、地方自治体の経営改革には全く触れられていません。 人口が少なくなるのであれば、公務員の絶対数の削減も必要でしょうし、人口が減少してもサービスは最低限維持できるように、複数の自治体が事業組合などを組織して共同で広域での公共サービスを提供するなどして、従来の分散かつ非効率なやり方を見直す必要があります。さらに遊休公共施設や道路・公園などの利活用促進などによって、新たな公共収入を生み出すことも積極的に検討されるべきと思います。 「地方消滅」論は、自治体はサービス提供のやり方も変えるというわけでもなく、今の自治体単位もそのままにしたまま、人口問題で地方が消滅するかもしれないから危険だ、と言っているのです。今のままで消滅しないためには、国民を大都市から地方へ移動させよう、また受け入れる地方の都合も無視して、都市から地方に人を受け入れろ、というのは、単に帳尻を合わそうという発想かつ、政治・行政を中心においた都合のよい社会の見方ではないかと思うのです。 少なくとも少子高齢化問題は20年以上前から指摘されてきた問題です。私が小学生の頃から学校の教科書にのっていた社会問題でした。予測されていたのです。これからも人口は一定の予測が可能なものごとです。それに対応して、自治体経営そのものを見直していくことのほうが確実かつ必要な政策であると思います。 大手予備校の代々木ゼミナールは、20年以上前から、来たるべく少子高齢化による生徒数減少を想定し、ホテルや高齢者住居への転用等を想定して自社ビルを建てていました。昨今、地方の代々木ゼミナールを閉校し、計画通りにリノベーションして使うようになっています。一方で、全国の地方都市の駅前には、この10年以内に開業したにも関わらず、ほぼ廃墟になっている公共施設が入った再開発施設が山ほどあります。この差はどこからくるのか。経営の持続可能性に対する意識の差であると言わざるをえません。 自治体経営のミスの積み重ね、将来の変化は見えているにもかかわらず、過去の方法の見直しをしない姿勢が、今の自治体の深刻な財政問題を引き起こしているのです。間違いの見直しをせずに、国民が移住し、それを地域の人々が迎え入れれば全てが解決するということはないと思います。ザルに水を注ぐような話で、むしろ移住したとしても自治体が破綻する可能性はあるわけですから、とても無責任な話です。