「地方創生」論議で注目、増田レポート「地方が消滅する」は本当か? 木下斉
4. 大都市部の少子化問題と向き合うべき
「地方創生」の議論で見落とされている問題は他にもあります。地方の魅力を高め、地方に移住する人が増加すること自体はもちろん、良いことですが、大都市部における少子化問題と人口減問題を考えなくてはなりません。具体的にいえば、大都市における出生率をどう改善するか、です。国単位での少子化を問題とするのであれば、すでに人口の半数が居住する大都市部での出生率低下の原因を解消し、出生率改善に務めるというのが本筋でしょう。例えば、少子化の要因としては、都市化によって生計費や養育費が地方よりも上昇していることが長らく指摘されています。これは大都市に生まれる子供と地方に生まれる子供の「逆差別」になっているとも言えます。この問題を、国レベルで福祉政策として向き合って解消し、出生数の増加に繋げていく、という視点も重要でしょう。 こうした大都市部における出生率低下の原因を分析し、対応することが大切であり、大都市だから出生率が改善できないと放棄し、地方にいけというのは極めて無責任です。大きな流れは都市への人口流入なのですから、その現実にそった少子化対策をとっていくことが大切であると思います。大都市であるから出生率の改善は実現できないわけではありません。世界をみれば、パリ、ロンドン、ベルリンといった世界の大都市では、この10年、出生率が改善してきており、OECD加盟国にみられる、人口密度が高くなればなるほど出生率が低くなるという負の相関関係は確実に改善されてきています。
5. ギャンブルのような一発逆転ではなく、潰れない地方政策を
仮に、地方から大都市圏への人口移動が止まり、多くの若者が地方で子供を生むようになったとしても、それが国全体の労働力として成長するまでには一定の時間がかかります。それまで、深刻な財政問題を抱える地方自治体が今の経営のままで維持される保証は全くありません。今の経営を続けることを前提としたうえで、「地方に人が移住したり、爆発的に出生率が改善しなければ、地方自治体は潰れて、地方そのものを支えることは放棄せざるを得ない」という現在の議論ほど無責任な話はないでしょう。 「地方消滅」論の大変わかりにくいところは、地方自治体が今のままでは破綻する、という警告は重要ではあるものの、その根拠と処方箋に大いなる問題があるという点です。指摘自体は正しい。しかし、これまで述べてきたように、問題の所在は、人口問題だけではなく、処方箋としては、人口問題だけでは解決せず、むしろ政治・行政の運営・経営に関する問題が大きいのです。人口問題については、地方から考えるのではなく、大都市部の出生率問題と向き合うべきです。日本より人口が少ない国でも公共サービスを立派にやっている国はあるわけですから、できないはずはありません。 今必要なのは、人口が爆発的に増加する時代に対応した自治体経営や各種社会制度を見直すことではないでしょうか。人口移動だとか、地方創生交付金の創設といった、一発逆転を狙うギャンブルのような非効率な「量」を追う施策ではなく、自治体経営の構造を社会の変化に適応させて「潰れない地方自治体」の構築を可能にする、生産性の高い地方のあり方を検討することでしょう。