なぜ決意?本音で語り人柄がにじみ出た名問答…田中将大の約39分間の楽天復帰会見を読み解く
メジャーには登板前に見るモチベーションビデオというものが存在する。一種のメンタルコントロールだ。田中は、その映像にあのシーンを入れていたという。 2013年11月3日、日本シリーズ第7戦の9回。故・星野仙一監督が、前日に160球を投げていた田中の登板を告げ、スタジアムにファンモンの「あとひとつ」の大合唱を響き、巨人打線を5人で抑え、球団史上初の日本一をつかんだ瞬間の映像だ。 「(日米で)舞台が違うので単純に(感動を)比べることはできない。でも、毎試合、それを見てゲームに入っていた。そこで(思いを)ご理解いただけたら」 だから目標は一つしかない。 「こだわりたいタイトルは日本一。いいピッチングをしていれば数字はついてくる。2013年で皆さんの印象が止まっている部分はあると思う。求められるハードルは高いと思っている。そこを飛び越えてやる、っていうのもやりがいとしてある。1試合でも多くチームに勝利をもたらす投球ができればいい」 ただアメリカに残してきた”夢の続き”はある。米メディアでさえ契約問題は「NPBの契約を検証するのは不可能」と憶測でしか書けなかったが、2年契約だが、1年後の契約破棄の権限が田中側にあるオプトアウト契約があることを明らかにした。 「どうなるかわからないが、まだアメリカでやり残したことはあると思っている。そこに関しての選択肢、オプションは捨て去りたくなかったのでこういう契約にしてもらった」 つまり今オフの米復帰へ含みを持たせた契約である。メジャーも新型コロナ禍で経営が圧迫されFA市場が停滞した。新型コロナが収束し、経営状態が好転すれば、田中が正当な評価でヤンキースにカムバックできる可能性もある。「やり残したこと」は「ワールドシリーズに出てチャンピオンリングを手にすること」である。 契約の中身をあえて明らかにしたのは、今後いらぬ憶測を呼びたくなかったのだろう。 その上で田中は約束した。 「腰掛けでなく、本気で日本一を取りにいきたい。生半可な気持ちではどこの世界でも成功することはできない。しっかりとまずは全力で戦いたい」 運命論で言うなら東京五輪もそうだろう。 「2020年が五輪開催で自分は出れない立場にあった中、延期になって日本球界に帰ってきて出るチャンスがあるということなので選ばれるならば出たい。選ばれて断る理由はない。北京五輪に出たが悔しい思いをしている。五輪競技から野球がなくなってしまうし自国開催。金メダルを取りたい」 メジャーリーガーの存在は国際試合では大きい。ヤンキースの準エースだった投手の凱旋を侍ジャパンの稲葉篤紀監督が見逃すはずはない。13年前の北京五輪では、まだ若手の田中は中継ぎメンバーだったがメダルを逃した。田中にメジャー移籍を見送った巨人の菅野智之の2枚看板があれば金メダルが見えてくる。東京五輪はまだ開催是非で揺れているが“持っている人”マー君が侍ジャパンに加わることが決まれば風向きが変わりそうな気さえしてくる。