代筆屋という設定の妙『光る君へ』2話「代筆仕事は私が私でいられる場なのです」に心揺さぶられる
代筆屋という設定
恋人と語らうにも異性を口説くにも必要で、出世にすら和歌の素養が影響したこの時代。その才が全くない人は苦労しただろうな……とよく思うのだが、それを解決する代筆屋をまひろがやっているのは面白い。 ここで男女問わず様々な人生に触れ、のちの物語の中に落とし込んでゆくのだろう。自然、作家としての取材になっている。 代筆屋の絵師(三遊亭小遊三)がいい。ひょうひょうとしているが、まひろの代筆屋ぶりをあたたかく見守っている。お客の相談に横で耳を傾けていながら、まひろに余計なアドバイスをしない。手元に高山寺の鳥獣人物戯画のような絵も見える。鳥獣人物戯画は作者がはっきりとはわかっていない。複数の手によるとも言われているが、もしかしたらこういった名もなき絵師たちの走り描きを集めて、巻にまとめた人物がいたのかもと想像するのが楽しい。 豊かでないとはいえ貴族の娘のまひろが町を歩き、しかも代筆屋をするという設定はトンデモナイものに思えるが、それが言語道断だというのは父・為時の激怒によって作中でフォローされた。そしてそれに抗うまひろの言葉「代筆仕事は私が私でいられる場なのです」は親や周りに否定されても捨てたくない大切なものがあった、多くの人の心を揺さぶったのではないか。私もそのひとりだ。
大事なことだから三回も言いました
藤原実資(秋山竜次)登場!待ってました! 「賢人右府(けんじんうふ)」と称されたこの人が日記『小右記』に細かく様々なことを記録してくれたおかげで我々は1000年以上前の当時あった儀式や出来事、人々の動きなどを知ることができるのだ(※現在残っているのは古写本で、欠けている部分がある)。 あまりにも賢く側近として頼りになるので帝がおそばからお放しにならず、かえって出世が遅れたというちょっと気の毒な人物だ。 日記には出来事だけでなくその深い見識により、是は是、非は非とする実資の姿勢が見える。 「右大臣殿(兼家)のことは好きではないが今日の意見はもっともであった。好きではないが正しかった。好きではないがな」 ドラマ内で大事なことだから三回も言いましたといわんばかりのこの短い台詞は、彼をユーモラスかつ見事に伝えるものだ。