FIPで8ヶ月の生涯を終えた愛猫...悲しみに暮れる家族に灯をともした兄弟猫
障害をものともせずたくましく生きる猫、難病を抱えながらも家族の愛に包まれて暮らす猫、ペットロスの家族を救った猫、認知症の犬を献身的に支えた猫、人間なら128歳の年齢まで生きた猫......奇跡みたいな"ふつうの猫"たちの、感動の実話を集めた書籍『猫は奇跡』(佐竹茉莉子著/辰巳出版)が発売されました。 【写真】8か月で虹の橋をわたった子猫・詩 本書には大の猫好きとして知られる小山慶一郎さんや、『25歳のみけちゃん』(主婦の友社)の著者で児童文学作家の村上しいこさんから推薦コメントも寄せられています。 本書には、著者の佐竹茉莉子さんが丁寧に取材した、猫と人の物語を17話収録。それぞれの「奇跡」が共感と感動を呼ぶ、猫好き必読の一冊となっています。 本稿では『猫は奇跡』から全3話をご紹介。第2回は、愛猫を病魔で亡くし、悲しみに沈む家族を救った兄弟猫「まさくんとしくん」の物語です。 ※本稿は、佐竹茉莉子著『猫は奇跡』(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです
「いてくれたら、うれしい」
「また猫が飼いたい......」 次男が友香さんにそう打ち明けたのは、一家で溺愛していた「詩(うた)」が空に帰っていって半年が過ぎた頃だった。それは、友香さんが心のどこかで予期していた言葉だった。 愛らしさの塊のような詩が、FIP※によって8ヶ月の短い生涯を終えてから、家じゅうが悲しみの湖底に沈んだ。会話がめっきり少なくなり、誰も笑わなくなった。友香さん自身、どれほどの涙をこぼしたことだろう。外出さえできない時期もあった。ようやく半年たって「詩はもういないんだ」という事実を受け入れられるようになってきていた。 詩をいちばん寵愛(ちょうあい)していた長男は、弟の願いに無反応を通す。数日後、「もう一度猫を飼うとなったら、どう思う?」と、友香さんは長男にそっと聞いてみた。下を向いたままの長男の目から、ぽとりぽとりと涙がこぼれ落ちる。反抗期真っ只中の彼の抱え続けていた喪失感と悲しみを友香さんは思い知る。 ひとしきり泣いた後、長男は小さな声で言った。「いてくれたら、うれしい」 ※FIP...猫伝染性腹膜炎の略。猫コロナウイルスが猫の体内で突然変異を起こすことで発症する、非常に致死性の高い病気。食欲不振、活動性の低下、発熱、体重減少などの症状が起こる