災害に備えて、スマホにできること&活用の心得 - 東京都総務局総合防災部に聞く
都内にお住まいの方なら、『東京くらし防災』『東京防災』という冊子が自宅に届いているのではないだろうか。都が平成27年度に発行した『東京防災』と、平成29年度に発行した『東京くらし防災』をリニューアルし、都内全戸に配布したものだ。 「『東京くらし防災』は行動編として、暮らしの中での取組や防災行動の基本をまとめた内容で、必ず目を通していただきたいと思います。『東京防災』は知識編として、より知識を深めたり必要な情報を知りたい時に辞書のように活用していただければと思います。どちらもアプリから確認できますので、スマートフォンでも読んでいただけます」(防災管理調整担当課長 安達さん)
今回のリニューアルでは特に、都民の3人に2人が共同住宅に居住しているという現状から、マンション防災の情報を重視したという。平成27年(2015年)の『東京防災』発行から10年近く。防災の基本に変わりはないが、街や社会の環境の変化、災害に対する知見の蓄積を取り入れ、我々も情報をアップデートしていく必要がある。 ■災害時のデマに惑わされない・加担しないリテラシーを 災害発生時、直接の被災地以外にいる人も含めて注意しなくてはならないのが「デマ」の流布だ。ほとんどの人がスマートフォンを持つ現在、特に人口の多い首都圏で大きな災害が起きた場合、周辺地域を含めて情報発信が爆発的に増えることが想定される。能登半島地震では幸いデマによる大きな混乱はなかったが、過去の災害の写真を使ったり架空の住所で救助を求めたりするデマ投稿が確認されている。人工地震、陰謀論などもデマの定番だ。東京都もこうした災害時のデマを想定し、対策を講じている。 「AIを活用したSNS分析ツールを用いて、さまざまなSNSから災害に関する投稿を収集し、デマとそうでないものを振り分けます。我々が内容を確認し、大きな影響を及ぼすようなデマについてはそれを打ち消す注意喚起を発信する、という訓練をしています」(防災通信課長 田中さん) 例えば動物園から動物が逃げ出したという情報なら都の公園管理課、暴動が起きているという情報なら警視庁や消防庁など、各機関と事実確認のための連絡体制も取っているという。さまざまな想定のもとで対策を講じているものの、実際にどんなデマがどの程度広がるのかは予測しきれるものではない。田中さんは「災害時にはデマが流布するという事実を皆さんが知って、冷静に行動していただくことが一番大事」と強調する。 同時に、被災当事者でない周辺地域に住む人が、人助けの思いで情報発信・拡散してしまうことも混乱を招く一因になり得る。知らない人・場所からの情報を真偽の確認ができないまま拡散するのはデマの流布に加担することになりかねない。また、時系列でないタイムライン上で何時間も前の情報を拡散しても迅速な救助行動に役立つ可能性は低い。SNSでの拡散より、然るべき機関への通報を優先させることを考えた方がいい。 「東日本大震災では音声通信で輻輳が起こり、固定電話・携帯電話とも一時発信規制が行われました。一方でデータ通信は非規制または音声に比べて規制が低く、通信しやすい状態であったことが報告されています。発災直後にSNSへ投稿したい気持ちはよくわかりますが、データ通信の増大が本来必要な通報に影響を与える恐れもあります。それが本当に必要なものかどうか、一呼吸置いてから投稿していただきたいと思います」(防災通信課長 田中さん)
東日本大震災当時とは違い、ほとんどの人がスマートフォンを持つ現在。災害時の通信障害による影響は想定しきれない。平時には備えのサポートとしつつ、災害時にはデマに冷静に対処し、本当に必要な情報を優先させるリテラシーを持って活用したい。
笠井美史乃