なぜ絶対王者の大阪桐蔭は準々決勝で下関国際に敗れたのか…奇策が裏目に出ての三重殺と「常勝軍団ゆえの死角」
先頭の赤瀬健心(3年)に中前打を許し、続く松本竜之介(3年)を追い込みながらもバスターを決められ無死一、二塁とされた。3番の仲井にバントを決められて一死二、三塁となって、大阪桐蔭の内野、外野は共に前進守備を敷きバックホーム態勢を取った。 バッターは4番の賀谷。カウント1-1から前田が投じたストレートは139キロしか出ていなかった。叩きつけられた打球は大きくバウンドしてセンター前へと抜けていった。勝負を決める逆転の2点タイムリー。賀谷も、また初球から積極的に振ってきた。 まだカウントは1-1。焦ってストライクを取りにいく必要はなかったが、負けと修羅場を知らない逸材は、ピンチにクレバーに攻めることを忘れていた。あるプロスカウトが、ぽつりとこう漏らした。 「常勝軍団ゆえの死角ですよ。彼にとっていい経験になったでしょう」 もっとも甲子園の歴史に残る大番狂わせを演じた下関国際の粘り強さと強力二枚看板の投手陣は紛れもなく本物だ。打線は大阪桐蔭を上回る13安打。これに応えた先発左腕の古賀康誠(3年)は制球に苦しみながらも緩急を使って、ひるむことなく立ち向かい、2番手の仲井は、大阪桐蔭打線を無得点に抑え込んだ。 3万4000人のファンで埋まった甲子園が最後まで固唾をのんで見守る激闘だった。どちらかといえば、観客は判官びいきで、9回に大拍手を下関国際に送り続けたことは、大阪桐蔭ナインにとってはつらかったかもしれない。しかし、それは、憎いほど強い無敵のチームを作りあげてきた彼らの軌跡へのリスペクトの証でもある。 試合後には感動的な場面もあった。一塁側ベンチ前で選手とともに整列していた敗軍の将は、下関国際の坂原秀尚監督が三塁側から連絡通路にさしかかったところで、自ら歩み寄って握手を求めたのだ。 そのシーンを見たスタンドからは大きな拍手が起き、SNSでも称賛の声が寄せられていた。 「いいものを見させてもらった」「自ら握手した西谷監督、素晴らしかった」「ああいう姿勢は人柄なんでしょう」 敗れてもなお全国のチームの目標とされる最強軍団の品格である。負けを知った大阪桐蔭はより強くなって聖地に帰ってくるだろう。 大本命の敗戦によって、どこが優勝してもおかしくなくなった夏の甲子園は、いよいよ残り2日。休養日を挟み20日に準決勝、22日に決勝が行われる。