なぜ絶対王者の大阪桐蔭は準々決勝で下関国際に敗れたのか…奇策が裏目に出ての三重殺と「常勝軍団ゆえの死角」
さらに回を追うごとに徐々にプレッシャーが強くなる。実は、春夏連覇のプレッシャーを一番感じていたのは、甲子園通算64勝を誇る百戦錬磨の西谷監督だったのかもしれない。 7回にゲームの流れを大きく変える珍事が起きる。 4―3で迎えた7回無死一、二塁。どうしても追加点が欲しい場面で仕掛けたギャンブルが裏目に出た。 西谷監督は、7番の大前圭右(3年)にバントの構えをさせていたが、下関国際の内野陣の猛チャージと、カウント2-0となったことで、3球目にバントエンドランのサインを出し走者にスタートを切らせたのだ。大前は外角低めのストレートをなんとかバットに当てたが、あろうことか、投手前の小フライ。キャッチした仲井から1-6-3とボールが渡り、これが三重殺となってしまったのである。 「バントがうまくいかなかった。取れるときに点を取らないと苦しくなる」 ベンチで西谷監督は下を向いた。目は自虐的に笑っていた。 三重殺は、第95回大会の愛工大名電以来、通算9度目という滅多にお目にかかれないプレー。もちろん、捕球してからの素早い送球でビッグプレーを完結させた仲井のフィールディングは素晴らしかった。 「いつも練習していたプレー。あそこで一気に流れがこっちに来た」と言う。 しかし無死一、二塁からのエンドランは、リスクのある奇策だ。通常のバントで手堅く送って良かった場面だが、西谷監督の選んだ作戦は結果的に裏目に出た。初回も2点を取って、なおも一死一、三塁の場面で早仕掛けをして一塁走者が盗塁死していた。ベンチワークのミスは接戦の中では致命傷となり、勝利の女神にそっぽを向かれることになる。 8回も一死二、三塁の絶好の追加点機を作ったが、2番の谷口は、見送ればボールのスライダーを振って三振、続くドラフト候補の松尾もボール球に手を出して連続三振に倒れ無得点に終わった。 下関国際の捕手、橋爪成(3年)の「甘く入ると強い当たりや長打にされる。攻めるところは攻めないといけない」という強気のリードに狂わされた打撃は、最後まで修正できなかった。 守りの切り札もおかしかった。西谷監督は同点で迎えた5回二死一、三塁から2年生サウスポーの前田を投入した。 プロのスカウトからは「来年のドラフトの目玉。今年の段階で1位指名だろう」と言わしめる逸材だ。おそらく西谷監督は、前田で下関国際の反撃を封じ込み、ワンチャンスで勝ち越して逃げ切ろうと考えていたのだろう。前田は、このピンチに4番の賀谷勇斗(3年)を一塁ゴロに打ち取ったが、ストライクとボールがハッキリしていた。 6回二死からストレートの四球を与えた。続く古賀に浮いたチェンジアップをレフト前に流され、一、二塁となったところで9番の橋爪にスライダーを引っ張られ、打球が三塁ベースに当たるという不運も手伝い同点に追いつかれた。下関国際は、左腕の前田の先発を想定して準備をしていた。球種にかかわらず追い込まれる前に積極的に振ってきた。振りながらタイミングをつかんでいった。 そして9回の悪夢である。