「心臓を替えようぜ」経営のセオリーにない、イーロン・マスクならでは企業改革の発想とは?
宇宙開発企業スペースXとEVメーカーテスラを率いる起業家、イーロン・マスク氏。ツイッター買収によって新たな注目を集める中、その大胆な経営手腕を目の当たりにした日本人がいる。元ツイッタージャパン社長の笹本裕氏だ。新たなトップは笹本氏に何を求め、組織をどう変容させたのか。本連載では、『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(笹本裕著/文藝春秋)から、内容の一部を抜粋・再編集。知られざるエピソードとともに、希代のイノベーターによる組織マネジメントの一端に迫る。 第3回は、マスク氏が「シンプルな組織構造」を求める理由を考察する。 ■ 会社は人体と同じ 私は、会社というのは「人間の体」と同じだと思っています。 企業を改革しようと思ったとき、私は自分を「外科医」だと思って企業と向き合います。外科医はまず、現状をつぶさに把握します。「心拍数は? 血圧は? 血液型は? それではまず血液検査をしましょう」とやる。 もし心臓移植をしないといけないならば「この体が心臓移植に耐えられるかどうか検査しましょう」と言って、そういうプロセスを辿ります。そこでやっと「リストラをする」などの治療を施すのが、私の価値観であり、考え方です。 でも、イーロンは「血液検査なんかする必要あるんだっけ? 時間もないんだし、心臓をボンと替えようぜ!」という感じなのです。それでうまくいかなかったら「そうか、残念なことをしたな」と思うくらいでしょう。壊しても作り直せばいい、と思っているフシがあります。 ■ いきなり心臓を取り替える イーロンの「ぶっ壊す」というやり方は、私の経営セオリーというか、これまでの経営で培ってきた教科書の中には、なかった項目でした。 心臓移植をするのであれば、私はまずは血液検査をしたい。もしくは、患者にちゃんと体力があるか見極めたい。いきなり心臓を取り替えるような発想は私にはありません。会社がショック死してしまったら元も子もないからです。 言ってみれば、Twitterの社員は、血液検査もせずにポーンと心臓をぶち込まれたわけです。 イーロンからすれば、こういうことでしょうか。 「いやだって、考えてみろよ。もし心臓をぶち込まなかったら、そもそも元の心臓はあと10秒後には停止してたんだよ。そしたら、脳死じゃないけれど、この母体もダメになってたんだよ。だからぶち込んでみたんだ」と。 「人間の体がどういうふうに作られているか」は、医学が進歩するにつれてわかってきていますが、企業再生で何が正しいかはわかりません。「経営も、こういう大胆なやり方もありなんだ」ということをイーロンは示してしまったのかもしれません。