陸運再編の焦点は「最大手のNXHDとヤマトHDがどう動くか」に移った(重道武司)
【経済ニュースの核心】 「桃太郎」vs「飛脚」の争奪戦──。陸運業界関係者らの間ではこう呼ばれている。いずれもそれぞれ輸配送のサービスブランドなどとして使われているためだ。 「津田沼戦争」を勝ち抜いたヨーカドーが閉店へ…空き店舗のまま“棚ざらし”の恐れも 冷蔵・冷凍などの低温物流に強みを持つ東証プライム上場のC&Fロジホールディングス(HD)に対し、5月2日から1株3000円でTOB(株式公開買い付け)を実施している「桃太郎」便のAZ-COM丸和HD。これに割って入ったのが、「飛脚」の佐川急便を中核とするSGHDだ。今週3日からAZ丸和を大幅に上回る1株5740円でC&Fへの対抗TOBに乗り出した。 後出しじゃんけん。相手が「グー」を出しているのにわざわざ「チョキ」や「グー」で応じるバカはいまい。SGHDからすれば「至極まっとうな戦術」(金融関係者)だが、それにしても1株5740円とは思い切り吹っ掛けたものである。 AZ丸和がC&F買収の意向を最初に表明したのは3月21日。SGHDの提示額は、当日のC&Fの終値2041円に180%超ものプレミアムを乗せた金額だ。C&Fの発行済み全株を買い付ければ総額は1237億円にものぼる。3月末のC&Fの純資産の2.64倍。同社経営陣がSGHDの買収提案に賛同を示していることもあり、市場では「もはや、勝敗は決したも同然」との声が圧倒的だ。 AZ丸和がこうした劣勢をはね返すには、とりあえずは17日までとしているTOB期間を延長したうえで、買い付け価格を最低でもSGHD並みにサヤ寄せさせていくしかない。ただAZ丸和の手元資金は458億円、純資産は575億円に過ぎず、その場合に抱え込む財務リスクは「あまりにも大きい」(証券筋)。 単独買収を諦め、イヌ・サル・キジを誘っての共同買収に切り替える手もなくはないが、それにはまず「きび団子」を用意できるかが問題だ。“飛脚退治”を成し遂げた後の「内輪もめ」勃発も何やら想像に難くない。 ドライバーの残業時間の上限規制を強化する「2024年問題」による人手不足や輸送能力低下を受けて再編相次ぐ陸運業界。C&Fの行く末がほぼ定まったことで、今後の焦点は「最大手のNXHD(旧日本通運)やヤマトHDがどう動くかに移った」というのが、市場関係者らの見立てだ。 (重道武司/経済ジャーナリスト)