なぜ、松のやは「290円朝食」にこだわる? ターゲティングとポジショニング戦略から見えた“必然”
競合各社が同価格帯を実現できない理由
しかし、競合各社も顧客の囲い込みとLTV向上を図るという戦略は実現したいはずだ。それができない事情を考えてみよう。 食材コストの違い 牛丼チェーンは主力商品である牛肉を使用しており、牛肉は豚肉に比べて原材料費が高い。国際的な価格変動の影響も受けやすく、コストコントロールが難しい。 メニュー構成の違い 競合他社は多様なメニューを展開しているが、牛丼に乗せるトッピングやサイドメニューの種類が多い。これにより、調理工程や在庫管理が複雑化し、人件費や時間コストが増加する可能性がある。 ブランド戦略の違い 牛丼チェーンは「早い・安い・うまい」が魅力であるが、極端な低価格戦略は品質やサービスに影響を及ぼすリスクがある。彼らは価格だけでなく、総合的な顧客体験で差別化を図っている。
ターゲティングとポジショニングによる戦略の違い
前項でターゲットの話を軽く出したが、それと、そのターゲットに対する魅力の打ち出し方=ポジショニングについて深掘りしてみよう。 ターゲティング ・松のや:価格に敏感な顧客層(学生、低価格志向のビジネスパーソン)、肉好きの顧客に焦点を当てている。 ・競合各社:幅広い年齢層、ファミリー層、健康志向の顧客など、多様なニーズに応える戦略を取っている。 ポジショニング ・松のや:「低価格で高品質なとんかつ・丼物を提供する専門店」として市場に位置付けられている。物価高騰時代において、価格競争力と専門性を最大の武器としている。 ・競合各社:「多彩なメニューと高品質なサービスで満足度を提供する総合的な外食チェーン」としてのポジションを確立している。価格だけでなく、顧客体験全体での価値提供を重視している。
松のやの戦略が示すもの
「松のや」が物価高騰の中で290円の玉子丼朝食セットを提供できる背景には、徹底したコスト効率化と明確な戦略的ターゲティングがある。一方、競合他社が同価格帯での提供を実現できないのは、バリューチェーン上の構造的な違いや、ブランド戦略、ターゲット顧客層の広さによるものである。 松のやの戦略は、物価高騰という市場環境を逆手に取り、低価格を武器に新規顧客を獲得し、ブランド力を高め、顧客を囲い込む巧みなものである。この戦略が長期的にどのような成果をもたらすのか、今後の動向に注目が集まる。