過去最高益のなかで商品値上げの山崎製パン、一方で多額の株主還元「株主配当大幅増」「自社株買い」
本誌・女性セブン前号(2024年12月5日発売)では「原価」を頼りに「値上げ」の実態を調査し、いまや日本人の国民食であり、各社横並びで年明けからの値上げを発表した「パン」業界に注目。国内最大手で、大手唯一の上場企業である山崎製パンを1つの事例として取り上げた。今回は企業にとってどちらも大切である「消費者」と「株主」の双方の視点から考察。消費者には負担を強いる一方で、株主には手厚い還元が行われている現実をライターの村上力氏がレポートする。 【表で丸わかり】山﨑製パンの株主還元の詳細。他、自社株買いが株価を高める理由なども
「企業努力だけでコスト上昇を吸収することが大変難しい。値上げを避けられない状況になっているため、やむを得ず、主力品を中心に一部の製品を値上げさせていただくということを発表いたしました」 山崎製パン(以下、山パン)は本誌前号で、取材に対し値上げに踏み切らざるを得ない、苦しい経営状況を訴えた。 2024年10月、『超芳醇』『ロイヤルブレッド』『ランチパック』などを製造販売する山パンは、包装材料や人件費、エネルギーコストの上昇など「原価」の高騰を理由に、2025年1月から食パンなど290品を平均して5.6%値上げすることを発表した。 しかし、近年の山パンの業績を見ると、訴える“窮状”とは乖離があるようにとれる。2023年度の利益は前年の2倍超で、過去最高を記録。2024年度も前年を上回る見込みで、9月までの決算は利益が前年同期比4割増となっている。また、値上げの理由としている原価の上昇について調べると原価率は減少していた。 そうした事情を踏まえ、前号では「2025年の値上げは軽微なコスト増を理由にした“便乗値上げ”ではないか」という疑念を指摘した。 さらに、山パンの経営をつぶさに調べると、「苦しい状況」とは矛盾する行動をとっていた。配当金などの「株主還元」を大幅に増額していたのである。 そもそも配当金とは何か。株式会社は、会社を設立する際、株式という証券を発行して資金を集め、事業を行う。株式を買った人は株主として、会社の所有者となり、もし会社がうまくいかずに破産すれば、株式は紙くずになり損をするが、会社の事業がうまくいけば見返りを得られる。その見返りの1つが、会社が株主に支払う「配当金」だ。 配当金をいくら払うかは経営者が判断する。山パンの配当金は近年、増加傾向にあり、2024年度は合計76億円を払う見込みで、前年に比べ25億円増だ。会社が配当金を増やす理由は、「利益が増えて経営に余裕ができたから」にほかならない。 株主還元は配当金だけではない。山パンは、自社の株式を株主から購入する「自社株買い」に、巨額の資金をつぎ込んでいるのだ。 その額は2021年から2023年で合計209億円。2024年度は過去3年分を大きく上回る、257億円をすでに自社株買いに投じている。 自社株買いが株主還元になる理由はこうだ。株主は株式の価値上昇によって見返りを得る。会社の価値が高まれば、株式を買った値段より高く売り、利益を得ることができるからだ。 会社による自社株買いには、株式の価値を高める効果がある。自社株買いにより株主の数が少なくなれば、株式1株あたりの価値が上昇するからだ(図参照)。 また、投げ売りされるのを防ぎ、株式の値段を維持する側面もある。多額の自社株買いの結果、東京証券取引所で売買されている山パンの株価は高まった。2021年頃は1600円前後で推移していたが、2024年3月頃は4000円に高騰した。 昨今、自社の株の価値を維持・上昇させることは、経営者にとって最優先課題となりつつある。山パンに限らず、日本の上場企業はどこであっても、急増している海外株主からの要求やマーケットからの厳しい視線をクリアするのに苦労している。「消費者か、株主か」の“板挟み”は、なにも山パンだけではない。
【関連記事】
- 過去最高の利益、原価率は減少…山崎製パンの値上げへの疑問 必要以上に消費者に負担を強いるものなのか、同社は「やむを得ず値上げをさせていただいた」と回答
- 《医師&食のプロが選んだ》体温を上げる食品&習慣ランキング 肩こり改善・感染症予防などいいことずくめ!肉や魚の中ではラム肉がランクイン
- 《原材料費高騰の影響も》卵、乳製品、調味料…メーカー側の都合で本物そっくりに作られた「代替食品」「安価な食品」のリスク 見極めるための注意点
- 人工甘味料、着色料、発色剤など…専門家が警鐘を鳴らす食品添加物「コンビニ弁当こそ添加物が少ない」の指摘も
- 【どっちが安い?】「スーパー vsドラッグストア」実売価格を現地調査 飲み物、食品、調味料、日用品…どの商品をどちらで買うべきか徹底比較