「訪問介護」中小の倒産が過去最悪…スタッフ高齢化、大手参入、コスト高が“三重苦”に
介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産が記録的な増加を見せている。2024年上半期(4~9月)の倒産は95件と前年同期(73件)をすでに22件上回って過去最高を記録。介護事業の中でも介護の軽度な人の日常生活を援助する訪問介護は1~9月で63件と、昨年1年間の67件に迫る過去最高の増加を記録しているのである(東京商工リサーチ調査)。 【写真】毒蝮三太夫さん88歳「オレが元気でいられる理由」 さいたま市内の訪問介護ステーションの代表が数カ月前の様子をこう語る。 「送迎用の車を20台以上持ち、介護職員は20人ほどで通院と乗降介助を主にやっていた訪問介護事業所が突然閉鎖しました」 「スタート当時はスタッフが40代、50代でしたが、介護保険が始まり24年も経つと職員も60代、70代になっています。道路交通法が厳しくなり、高齢者の事故も増え、さらにガソリンの高騰などコスト上昇で経営が厳しくなりスタッフが徐々に退職していきました」 先の調査では、従業員20人未満の事業所の倒産は86件と全体の9割を超え、小・零細事業所の行き詰まりが多いことが分かる。同社の情報本部・後藤賢治課長が原因を説明する。 「介護職員を含めた人手不足の長期化とともに職員の高齢化、介護事業の将来性を見込んだ大手企業の参入で採用や市場獲得競争が激化し、中小事業者に厳しい状況になっていること、そしてコスト高の影響です」 介護報酬は公定価格で決められている。他の民間企業のようにコスト上昇分を価格転嫁できないことも経営に影響しているといえる。 今年1月22日に発表された24年度の介護事業の基本報酬(3年ごとに改定)は、全体的には1%から4%程度引き上げられた。ところが訪問介護は2%の引き下げとなっている。訪問介護の収支差率(売り上げに対する利益率)は+7.8%と、他のサービス(平均+2.4%)に比べプラス幅が大きく、経営状況は良好と判断した結果だ。 訪問介護事業は大手と小・零細事業所では経営状況は大きく異なる。利用者宅を1軒ずつ訪問する事業者と、集合住宅に共同で住む利用者への訪問を得意とする大手事業者とでは利益に大きな差が出る。赤字経営の小・零細事業者に倒産が集中する一方、大手事業者の利益は突出している。その結果、訪問介護は経営状況が良好と、今回の訪問介護全体での引き下げとなった。訪問介護の現場と乖離した設定といえる。 「改定後の新賃金が支給されるのは6月以降です。マイナス改定の影響が出てくる今後、さらに小・零細訪問介護事業者の倒産は避けられないでしょう」(前出の後藤氏) 選挙後の新政権に課せられた重要課題のひとつだ。 (ジャーナリスト・木野活明)