知念実希人作品初のアニメ化『天久鷹央の推理カルテ』も話題 “医療ミステリー”の系譜
アニメ第2期の放送を控える『薬屋のひとりごと』も
■『インハンド』(2018年~2020年) こちらも日本産のマンガである。本編連載中の2019年にテレビドラマ化もされている。 本作の主人公・紐倉哲はドクターではあるが、医者ではなく医学博士である。専門は寄生虫だが博覧強記の科学者であり、扱うテーマはドーピングから毒キノコまで幅広い。紐倉は助手の高家とともに、時にはスリや家宅侵入などの軽犯罪も厭うことなく情報を集め、不可思議な事態を解明していく。作者の朱戸アオは渋い医療ものを書き続けてきたが、同作者の感染症のアウトブレイクを題材にした『リウーを待ちながら』の登場人物が本作に登場するクロスオーバー展開もある。 有名なロナルド・ノックスの探偵小説十戒では「未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない」とされているが、博覧強記な紐倉が語る一般的とは言い難い科学的知見の披露は本作の魅力であり、ある種、教養書としての側面もある。 ■『FOREVER Dr.モーガンのNY事件簿』(2014年~2015年) 筆者の感覚では、『CSI:科学捜査班』(2000年~2015年)以降、刑事ではないが捜査に関わる警察の裏方的存在の存在感がフィクションの世界で増しているように感じる。『CSI』シリーズは今までスポットライトを浴びることがなかった、警察の鑑識を主人公にして成功したが、『FOREVER』の主人公は監察医である。 主人公のヘンリー・モーガンは19世紀生まれだが、奴隷船の航海中に船長に銃撃されて死亡したときに体に何かが起こり復活。以降は死んでも蘇り、年を取らない不老不死になっている。様々な種類の死に方を経験してきた死のスペシャリストであり、ヘンリーが自ら死に方を試すことで被害者の死の原因を解明していく独特なスタイルを取っている。1シーズン目は22話フルで制作されたが、残念ながら1シーズンで打ち切りになってしまった。 ■『薬屋のひとりごと』(2011年~) これまでに取り上げた4作品と大きく異なり、ファンタジーで「小説家になろう」発のライトノベルである。中華風の架空世界が舞台のファンタジーだが、主人公は薬師で、ファンタジーにありがちな超自然的な能力は登場しない。 主人公の猫猫(マオマオ)は薬師を名乗っているが、毒物を主軸に広範な医学知識を持ち、患者を調べ上げて原因を特定する姿は、医師であるハウスや岸に通じるものがある。 ライトノベルでありながら硬派かつ、現実的な内容でありファンタジーでありながらリアルに軸足を置いているバランス感覚が素晴らしい。2種類のコミカライズに加えて、2023年に初投稿から12年にして満を持してアニメ化された。2025年1月10日よりアニメ第2期の放送がスタートする。
ニコ・トスカーニ