【年末年始に行きたい美術展】森美術館『ルイーズ・ブルジョワ展』は元旦も開館
ブルジョワ作品における赤と黒は、攻撃的な気持ちや嫉妬心、敵対心を表す。抑圧的な父親への衝動を表現した《父の破壊》(1974年)は彼女自身のトラウマに立ち向かった作品だ。強い拒絶とともに、一方では愛されたいという気持ちも抱いていたといわれるブルジョワ。複雑な人間の感情は奥深い。スパングルのドレスも、深い闇を灯火のように照らすのか、あるいは心をのぞこうとする視線をそらさせるのか。そのミステリアスな輝きに魅せられる 《THE DESTRUCTION OF THE FATHER》1974 ARCHIVAL POLYURETHANE RESIN, WOOD, FABRIC, AND LIGHT 237.8×362.3×248.6cm COLLECTION: GLENSTONE MUSEUM, POTOMAC, MD, USA (EXHIBITION COPY SHOWN; 2017) ガウン¥1,408,000(予定価格)・靴(参考商品)/バレンシアガ バレンシアガ クライアントサービス TEL.0120-992-136
「さまざまな人間の感情を類いまれな造形力で表現する」
日本では27年ぶりとなる『ルイーズ・ブルジョワ展』について、担当キュレーターの矢作学に鑑賞ポイントを聞いた。 ――ルイーズ・ブルジョワの個展がいま森美術館で開催されるのはなぜでしょうか。 「2003年、六本木ヒルズが開業された際に、8本脚の蜘蛛が卵を抱く屋外の彫刻作品《ママン》(1999/2002年)が設置されました。彼女は私たちにとっても重要なアーティストのひとりです。物量の多さや輸送の困難さなどがあり、ひとつの美術館だけでは開催が難しかったのですが、2023~24年にシドニーのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で行われた個展の一部に、ニューヨークや日本からの作品を加えて今回再構成しています。作品の8割は日本初公開です」 ――彼女はどのような作家なのですか。 「1911年にパリで生まれ、2010年にニューヨークで亡くなった、20世紀を代表する重要な作家です。70年にわたる長いキャリアの中で、さまざまなことからサバイブしてきた人。作品の源にある、彼女の中からぬぐいされない感情に、観る側も対峙させられます。本展覧会は3つの章で構成されており、第1章は若い頃に母親を亡くしたことから、見捨てられることへの恐怖をもとに創作した作品群で始まります。苛さいなまれるような気持ちだけではなく、晩年を支えたアシスタントを描いたといわれる《午前10時にあなたはやってくる》(2007年)のように、人と人が支え合う大切さを表現した作品も含まれ、両義性も感じられます」 ――“アートによる救済”というのもテーマになっているそうですね。 「第3章の最後の《トピアリーIV》(1999年)は、片足がなく、傷ついた状態の人が自分を松葉杖や木の幹で支えながら立っている作品です。これを観ると、いろいろな悲しみや負の感情を形にすることで、自分の気持ちを浄化してきた作家だといえます。1951年の父親の他界後は、精神分析を受けることも彼女の助けになりました。その頃の膨大な資料が2004年と2010年に発見されたことで近年、彼女の研究も進んでいます。感情に動かされる人でもありますが、インタビューや文章を読むと、頭脳明晰。イメージ豊かな文章を書くことも知ってほしいので、ブルジョワの言葉を投影した作品にも注目してください」 『ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ』 20世紀以降の美術史に大きな影響を与えたルイーズ・ブルジョワの大規模個展が開催中。幼少期のトラウマ的な記憶が作品づくりの源になっている。創作することで癒やしを得ようとした彼女の70年にわたる長いキャリアを俯瞰する。男性と女性、受動と能動、具象と抽象、意識と無意識といった相反するものをしなやかに行き来する思想に触れたい。 会期:~2025年1月19日 会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53F) BY MICHINO OGURA, STYLED BY TOMOKO IIJIMA, HAIR BY TOMIHIRO KONO, MAKEUP BY TOMOHIRO MURAMATSU, MODEL BY ASUKA AT DONNA MODELS