京王井の頭線「渋谷駅の1つ隣」神泉駅の不思議な風景 トンネルを一瞬だけ出てまたすぐ入る駅周辺の地形
井の頭線全駅のデータを見ると、2021年度に1万人未満だった駅の中で、1万人以上に増えているのは神泉駅だけであり、わずかではあるが定期外利用が拡大している。 理由の1つは、道玄坂の途中から右に入り、神泉駅の南側をカーブしながら通る道の周辺が、近年「裏渋谷」と呼ばれ、新たにオープンした飲食店が目に付くようになっているためかもしれない。 神泉駅と関係が深い地域としてもう1つ、渋谷トンネルの上にある円山町についても触れておきたい。
ここは弘法大師の弟子の僧によって神泉湯(弘法湯)が開かれたことを契機に、花街として発展し、料亭が立ち並んだ。その後はラブホテル街として知られるようになり、近年はクラブやライブハウスも目立つようになっている。歌や漫画、映画の舞台になっており、独特の風情がある地区である。 ■地域の風景に欠かせない駅 これらの施設への足としても神泉駅は活用されているはずで、前述した乗降人員の増加にも貢献しているのではないかと思われる。
ちなみに神泉町と円山町の北側には、高級住宅地として知られる松濤があり、国道246号線や首都高速道路3号線を挟んだ南側は南平台町で、東急の本社などが位置している。西は山手通り沿いまでが神泉町で、それを越えると目黒区駒場になる。区境はちょうど神泉トンネルの入り口付近だ。 神泉駅周辺は、狭い谷の周辺に多彩な街並みがちりばめられていて、高層ビルが次々に建設される渋谷駅の隣とは思えない景色が広がる。井の頭線はたしかに踏切の周辺で一瞬姿を見せるだけだが、この地域の風景に欠かせないものである。
森口 将之 :モビリティジャーナリスト